初出
「闇黒日記」平成十五年五月二十二日
公開
2003-05-25
最終改訂
2008-05-24

清澤洌に學ぶ――「反米」の不可能なる事

「わしズム」Vol.6で、小林よしのり氏や西部邁氏らが反米の怪氣炎をあげてゐる(「アメリカ追従は国益にならず」)。困つた事だと思ふ。


戰後、金儲けに邁進し、正義を持たない日本人が、アメリカの正義を居丈高に非難し嘲笑するのは、どうかしてゐる。アメリカは、紆餘曲折があつたとは言へ、建國以來、自由・平等と言つた理念を奉じてきた國家である。ただ偶然、東海の小島に人間が寄り集まつて出來た日本に、建國の理念は存在しない。何も理念を奉じて國を作ればそれで良いのかと言へば、もちろんさうでもないが、現實と理念とのバランスを保ちながら比較的健全に發展してきた國は、アメリカ以外にはさうさう存在しない。

「反米」主義者は、單なる反アングロサクソン・反白人の民族主義者に過ぎない。小林よしのりらが「親米派」を、一々「アングロサクソンに擦寄つてゐれば安心と考へる連中」と極附けてゐるのを見れば、却つて彼等の信條の據つて來るところがどこにあるのかは、明かである。私は、文化の違ひを意識する事は大事だと信ずるが、民族が異ると云ふだけの事で相手を拒絶する態度は間違つてゐると思つてゐる。

西アジア・東南アジア・中國・韓國・朝鮮に親近感を抱く「反米派」は、大東亞共榮圈の復活を目指してゐるやうに見える。中國に反感を抱く「反米派」も、彼等が右翼であつて反共である爲に現時點で共産國家である中國を認めないに過ぎない。しかし、「アジアは一つ」と云ふ岡倉天心の言葉は、はつきり言つて根據が無い。或は、それは、「日本主義」のテーゼであつて、日本を盟主にしたアジアの統一を最終的な目標としたものである。しかしながら、アジア諸國が日本を盟主に戴かねばならない理由は皆無である。

一方で、日本が現在のアジア諸國と對等に附合ふのは、不可能である。經濟的に日本は豐かな國「持てる國」に屬す一方、多くのアジアの國家は「持たざる國」である。アジアの多くの國家は、經濟的に不安定である。だが、同時に、アジアの殆どの國家が、日本と違つて政治的に不安定である事も無視出來ない。政治的に安定し、經濟的に豐かな國家は、アジアには日本以外に存在しない。かうした状況で日本がアジアの國々に深く關與するのは、リスクが大きいと言はざるを得ない。「反米派」は、アメリカと附合ふのは日本の國益にならないと主張してゐるが、どう考へてもアジア諸國よりもアメリカと附合つた方が、日本にとつて利益となる可能性は高いのである。「反米派」の主張は、リスクが高いとしか評しやうがない。

參考文獻
北岡伸一『清沢洌』(中公新書)
清沢洌『暗黒日記』(ちくま文庫・評論社)
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