第十話 あれだ つまり 乙カレー

プロローグ

 デカイオーのコックピット。

「じゃがいもじゃがいもー♪」

 楽しげないづみの声。

 良いにおいも漂ってくる。

「にんじんにんじんー」

「おお、いづみくん。今日の昼ご飯はカレーかね」

 真木がくんくん、鼻を鳴らした。

「ええ。カレーです。楽しみに待っていてくださいね、先生」

 いづみがにっこり微笑む。

「らららねぎー。たまねぎー。ねぎぼうずー」

 ねぎぼうずは入れなくていいよいづみ。

 ところで、火浦功はカレーにインゲン豆を入れるのだらうか。

 フェード・アウト。

タイトルロゴ

鋼鉄面皮デカイオー

op

例の主題歌。

CM

スポンサーがとうとうなくなったらしく、局イヴェントの宣伝。

本編

 モスクワで疲れ切ったトミーと真木たちは、とりあえずインドのニューデリーへ飛んでいた。


 カシミールの山を越え、ヒマラヤの尾根を左手に見ながら、二機のロボットはインダス上流域へと向かう。

 雪解けで増水した大河・インダス川。茶色く濁った流れ。両の岸には、いよいよ春本番を迎え、芽吹いた草木の緑が眩しい。

 ターバンを頭に巻いた老人が、子供の手をひいて、歩いている。行く手は、奇怪な神々の像を祀ったヒンドゥー教の寺院。みやげ物屋のおやじがうららかな陽気に眠気を誘われて、あくびをしている。

 ところどころで、川の水で洗濯物を洗うおかみさんの姿が見える。川の泥水で、洗濯物が綺麗になるのかどうかは不明だが、頑張っているらしいので、つっこむのも可哀想だろう。

 ところで、この辺の描写、適当に書いているのだが、合っているのだろうか。とても不安だ。


 次はインドだからと、頭部にターバンを巻いてみたガルベース。

「どうだ、似合うだろう、マリアンちゃん」

「……ボスの考える事は時々良くわからないけど、確かになぜか似合ってるわね」

「ふはははははは。これはあのデカイオーには真似できまい」

 大威張りで哄笑するトミー。

「出来ても仕方がないと思うけど。もともと胡散臭いガルベースが、ますますあやしくなっているし」

 溜め息をつくマリアンちゃん。しかし、そもそもこのあやしいガルベースを選んだのはお前だマリアン。しかし、その辺りの由来はもう、二人とも忘れていた。作者の記憶もあやしいくらいだから当然だろう。


 とにかく、うららかな陽気であった。

 さっき、インドだからと言っていづみがカレーを作ったのだが、おかげで真木はおなかが一杯になってしまっていた。

「むむ、眠くなってしまったぞ、いづみくん。居眠り運転は事故のもとだ。どこかで一休みしていかないかね」

 うつらうつらして額をハンドルに思い切りぶつけて、痛くて目を覚ました真木がぼやいた。

「大丈夫ですか、真木先生。よろしければ、わたしが操縦、かわりますが」

「……いいのかね、いづみくん。きみは眠くないのかね」

「わたしは大丈夫です。まだ若いですから」

 胸を張るいづみ。

「……そうだな。じゃあ、ちょっとだけ替って貰おうか」

「お任せ下さい、真木先生。あとはわたしに任せて、ゆっくり休んで下さい」

「おう……ぐーすぴー」

 真木はそっこうで(笑い)眠り込んでしまった。

「ふふ。かわいい寝顔」

 いづみが目を細めた。

 変な師弟関係である。こんな設定を作った俺も俺だが。

 どうでもいいが、側溝で眠るのはやめよう。汚いし。


 真木が良く寝ている頃、ニューデリーでは事件が勃発していた。スタンプが強奪されたのであった。

 スタンプは、それ自体、安い材料を使っているろくでもない代物なのだが、とにかく大きいので、インド人には珍しいもののように見えたらしい。

 なぜかメイド服の部下から報告を受けたドクター秋本は、しかし、にやりと笑みを浮かべた。

「よい、よいではないか。スタンプ……スタンプラリーに欠かせないアイテム……それが今、邪悪なる者によって盗まれた。しかし、それでもあきらめないデカイオー――いやさ、世界ロボット振興会。真木よ、この困難に打ち勝って、われのもとへとやってこい。われはなんぢを待っておるぞ」

 そんな秋本に突っ込みを入れる勇敢なメイド。

「真木博士のデカイオーとともに、ドクター・トミーのガルベースもニューデリーに向かっております」

「ほほう。トミーくんもか。ところで、トミーって誰だ?」

「……ドクター・トミーと愉快な死ね死ね団略してトミー国際発明研究センターの所長です」

「全然略になってないぞ。それにしても、そんなやつが、われの用意したトラップだらけのスタンプラリーで生残っていたとはな。至急、トミーの情報を集めよ」

「ははっ」

 メイド服の部下は、少しずれた眼鏡を片手で直して、退出した。ちなみに、結構可愛い女の子だった。男が趣味で女装しているのでも、ドクター秋本に女装した男を部下に使う趣味があるのでもなかった。

 しかし。

「……それにしても、どうしてあの部下は、メイド服を着ていたのだろう?」

 秋本は、首を傾げた。


 大見えを切ったいづみだったが、やっぱり眠かった。油断して、ちょっとうつらうつらしてしまった。

 すると。

 物凄い衝撃。

「何だっいづみくんっ地震かっ!?」

 真木がとび起きた。

「落着いて下さいっ地震の訳がないでしょっ!」

 お前もおちつけ>>いづみ。

 二人はおちついた。それにしても、いったい、何が起こったのか。

「あっ真木せんせいっあのダルシムみたいなロボット、スタンプを持っていますっ!」

 実は、スタンプを奪った犯人――インド製のロボットが、逃走の最中、居眠り運転していたいづみのデカイオーと正面衝突したのだった。

「おお、たしかにスタンプだ。よし、ここであったが百年目。スタンプを押して貰おう」

 しかし、ダルシムロボは、逃走の態勢に移った。

「む、追いつく事ができたらスタンプを押す、という訳か。ドクター秋本、こんなイヴェントを用意しているとは。なかなかやりおる」

 真木は勘違いした。

 ダルシムロボは、ヒマラヤの山脈へ向かって飛んでいた。それを、デカイオーは追った。


「何だ何だ?」

 やはりねぼけまなこのドクター・トミーは、突然向きを変えて高速飛行を始めたデカイオーに面食らった。

「インド製ロボとデカイオーが衝突したのよ」

「ふうん。でもなんでデカイオー、あんなカレクックみたいなロボットを追っかけてるんだ。無視こそ最大の罵倒なのに」

「今、ドクター・トミーが良い事言った! でも、カレクックロボがスタンプを持っていたらどうする、ボス?」

「なに、あれがスタンプ係だったのかっ! よし、追うぞ、マリアンちゃん!」

「世界ロボット振興会の共通認識コードを発信していなかったわ。あのカレクックロボ、イレギュラーよ」

 マリアンちゃんが呟いた言葉を、トミーはきいていなかった。


 ダルシムロボともカレクックロボとも呼ばれているインド製ロボ、それを追ってデカイオー、そのうしろにガルベース。

「ガルベース、追撃してきます」

「前と後ろをインド人みたいなロボットにはさまれて、いやだなあ、いづみくん」

「たしかに嫌ですけど、今はそんな事を言っている時ではないと思います」

「冷静だな、いづみくん……」

「あっダルシムロボがトランスフォームしました!」

 インドロボは車に変わった! 着地して、そのまま峠道を物凄いスピードで下り始めた。

「これはわしらに対する挑戦だな。いづみくん、デカイオーもトランスフォームだ」

「トランスフォーム!」

 デカイオーもトランスフォームして、車になって、峠道に降りると、インドロボを追いかけ始めた。

「何をやっているんだあいつら」

「……たしかに謎ね。でも、ボスにつっこまれたらおしまいのやうな気が」

「うるさいなこの乳女」

「さべつはつげんはんたい」

「それにしても何だか楽しそうだな。よし、俺たちもトランスフォームして追いかけるぞ」

「トランスフォーム機能なんて、ガルベースにはないわよ」

「そうか。残念だ」

 インドロボとデカイオーは、峠道で激しいバトルを繰広げていた。

「か、慣性ドリフト」

「いづみ……いつの間にそんなテクニックを……」

 デカイオーの変形した偽ハチロクは、すごかった。

 インドロボの変形した謎のインド車は、必死で逃げていたが、振り切れなかった。

「よし、仕掛けるのは次の五連続ヘアピンよ」

「どうして次に五連続ヘアピンがあるとわかるんだ、いづみくん」

「黙っていて下さい、真木先生。舌を噛みます」

 そしてデカイオーはコーナーで、インド車の内側から物凄いスピードで追い抜きはじめた。

「み、溝落し……何をやってるのよ、いづみったら」

 しかし。

「あっタイヤが滑った!」

 いづみの悲鳴。

 勢いがついたデカイオーの偽ハチロクは、インドロボの変形した車の横っ腹にぶつかった。

 インドロボ車は、はじかれて、谷底へ落ちていった。

 いづみはゆっくりと車を路肩に止めた。コックピットから降り立つと、下の方を見ながら合掌した。

「……成仏して下さい……なんまんだぶなんまんだぶ……」

「相手はヒンドゥー教だったみたいだが」

「それにしても、スタンプどうしましょうか?」

「ほーほほほ。大丈夫よいづみ。スタンプなら、ほら、ここに!」

 上から声が降ってきた。

「スタンプは、やつが途中で落したので、拾っておいた。もうわれわれはスタンプを帖面に押してある。真木よ、俺たちは先に行くから、お前もスタンプを押したら、後を追ってこい」

 ガルベースがぽいとスタンプを投げ落とした。凄い衝撃音。いづみは両腕で顔面を覆った。

 土埃が晴れるのを待って、いづみは顔を上げた。そこには巨大なスタンプが落ちていた。

 そして、ガルベースの姿はもう、なかった。

次回

 四千年の歴史を持つといわれる大中国。しかし、殷(商)以前の文明といわれる夏の存在は怪しいとされ、宮崎市定によると周の前半の歴史も怪しいのであるから、案外、中国の歴史も古くはないのかも知れない。

 日本の歴史も実は結構古いものであった、ということになるかも知れない。発掘された彌生式土器の炭素十四による時代測定の結果により、数百年、彌生時代の開始時期が早まる可能性が出てきた。まだ論争ははじまったばかりだが、これまでの定説が覆り、歴史教科書の記述が書き換えられる事になるかも知れないという。今、古代史が面白い。

 しかし、デカイオーの話とは全然関係ない。次回「この街は病んでいる」。

 それにしても、雨の日が続きますね。明日は晴れると良いですね。ではまた。

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