第九話 モスクワの赤の広場

プロローグ

いづみ
前と後ろ、どっちが好きでしょう。
真木
……なんだね唐突に。
いづみ
どっちが好き?
真木
……良く解らんが、それでは、あー、前の方が好きかな。
いづみ
はずれー。
真木
はずれ?
いづみ
正解は、後ろでーす。
真木
正解なんてあるのかね。
いづみ
だって、言うじゃないですか、後ろには目がない、って。
真木
いや、そのだな。いづみくん……。

 フェード・アウト。

タイトルロゴ

鋼鉄面皮デカイオー

op

例の主題歌。

CM

不景気になると、駄洒落を使ったCMが増えるそうです。困った事です。

本編

 赤の広場――かつて、ソ連の時代には、共産党一党独裁の象徴的な存在であったこの地も、今や、多くの人が行き来する観光地である。

 その観光客らの間にどよめきが起った。

 気味の悪い巨大ロボットが空から降ってきたのである。

「わー」

「何だ何だ?」

 あたりはパニックになった。

 ロボット――ガルベースであった。いいかげん、古くて誰も元ネタがわからないかも知れないが、ガルベースである。

 そのコックピットが開いて、中から美女が顔を出した。

「あれれ、ここは赤の広場だよ。スタンプはここでは貰えないよ、ボス?」

 マリアンちゃん――しゃんとしていれば美女として多分通用する筈であるが、喋りは何か厨房臭い。

 その脇に、細身のおっさんが顔を出した。言うまでもなく、ドクター・トミーである。

「ふむ。ここが赤の広場か。ついでだからレーニンの死体でも見物していくか」

「死体と言うか遺体と言うかで印象が全然違うけど、早くスタンプを貰ってニューデリー・北京・東京をまわらないと、デカイオーに追いつかれるよ。どうでもいいけど、『遺体』を『イタい』と誤変換する作者のIME萌え」

「モスクワに来てレーニンを見物していかないなど、仙台に行って古本市を見ていかないのと同じようなものだぞ。来た甲斐が無いという事だ」

「古本市はたまたまやってただけなんだと思うけど。仙台といったら普通、松島じゃないかしら?」

「どっちでもいいから、レーニン廟に行くぞ。用意しろ」

「行かないって」

 と、二人で変に揉めている間に、デカイオーがやってきた。

 再び、巨大ロボットが赤の広場に降り立つ。観光客と地元の連中は大騒ぎである。

 デカイオーのコックピットが開いた。中からこれまた美少女が顔を出した。

 騷いでいた連中が、しーんとなった。

「ごめんなさーい。道に迷いましてー」

 いづみちゃんである。こちらは、和風の涼しげな顔をした、まともな美少女である。いつの間にか怪しいキャラクターになってしまったけれども、とりあえず初期設定では問答無用の美少女という事になっていた。

 しかし、彼女を見て、遠巻きにしていた人々は、何となくこの事態を許せるような気がしてきた。それほど、いづみというキャラクターは、見た目は可愛らしかったのである。少くとも、初期設定ではそうなっていた。

 だが。

「ふむ。赤の広場だね。どうせだからレーニン廟でも見物していくかね、いづみくん」

 ドクター真木が顔を出すと、途端にブーイングが卷き起こった。

 いろいろなヤジが飛んだ。

「お前ら、コックピットから顔を出さないと、そこがどこだかわからないのか?」

 なかなか秀逸な突っ込みだった。真木とトミーは、反論できなかった。

 そして。

「われわれは警察である。きみたち、そこにいられると邪魔だから、どきなさい」

 モスクワの警察は、巨大ロボット・通称「レイバー」を持っていた。

 デカイオーとガルベースは、そろってレイバーに連行された。

 それにしても、このネタ、三箇月もすれば風化するんだろうなー。


「おい真木、レイバーどもなら、この世界最強のガルベースが、すべてかたづけたぞ。そんな訳で、われわれは先に行くからな」

「いづみ。悪いわねー。おさきー」

 という訳で、ガルベースは、ぶちこまれた牢獄を破壊して、すぐに逃走した。

 レイバーは弱かった。

「……ということは、私達も別に監視されている訳ではないですよね?」

「ふむ、そうだな、いづみくん。わしらも出立することとしようか」

 正義の身方を気取って、モスクワ市警察に協力的だったデカイオーも、どうせなので逃走した。


 スタンプを押すところは、レーニン廟の前にあった。

「ほうら見ろマリアンちゃん、俺の言った通りじゃないか。レーニンの死体は俺を呼んでいたのだ」

「あんまり呼ばれたくないし、そもそもボスはただ、レーニン廟を見物したかっただけじゃない?」

「結果としてそういうことになるかも知れないが、とにかくスタンプを押してもらおう」

 レーニン廟前でスタンプを押す係は、スターリンロボだった。

「ガルベース……きさまの所業、ちゃんと知っているぞ」

 なぜか立派なひげを生やしたスターリンロボが、ガルベースに告げた。

「むう。やはり知っていたか」

「やはりって、どういうこと、ボス?」

「あの偉そうな態度に偉そうな面、スターリンロボはこのロシアのロボット界の独裁者に違いない。俺はそう読んでいたのだ」

 ジト目でトミーを睨むマリアンちゃん。

「……と、とにかくだ。何とかこの場はごまかさないと」

「お前がごまかす必要はない。このわしが市民や諸外国はごまかしておいてやる。レイバーどもは、かねてから邪魔な存在だと思っておったのだ。協力、感謝する。ほれ、スタンプ」

 ぺた。

「……何だか良くわからんが、我々は助かったようだぞ」

「……そうね。でも、あとが恐いから、スタンプは押して貰ったし、この場はさっさと退散しない、ボス?」

「そういう訳で、スタンプ、ありがとう。あとはよろしく頼む。じゃ」

 ガルベースは、異様にフランクな態度で、スターリンロボに挨拶すると、せやっ、と言って飛んでいった。


 スタンプを貰いに、デカイオーもやってきた。

 この時、既にスタンプを押す係は、替っていた。

「あなたがデカイオーですか。わたしはフルシチョフロボです。わたしは前任者・スターリンロボの悪行を暴き、批判を行っています」

「へー。大変ですねー。おつかれさま」

 にこにこしながらいづみは挨拶した。

「スターリンロボは、ドクター秋本によるロボット界統一計画を利するべく、ガルベースによるレイバー破壊活動を隠蔽していました。しかし、これは間違っていたのです。われわれ世界ロボット振興会は、正しいやり方でロボットを世界に普及させなければなりません」

 フルシチョフロボによるスターリンロボ批判は、しばらく続きそうだった。

「それはそれとして、フルシチョフロボさん、スタンプを押して下さい」

「おお、そうでした。すみませんね、いづみさん」

 ぺた。

 しかし、そこへ現われたブレジネフロボ。

「フルシチョフロボくん、きみは失脚した。以後はわたしがスタンプを押す係だ」

 いかにも自慢げに、ブレジネフロボは言った。

「……スタンプを押す係……」

 ドクター真木が呟いた。

「ふむ。悪しきロボット帝国主義者のきみたちはしらんのだろうね。わがロボット社会主義共和国連邦略してロシヤの」

「作者め、語呂合せによる辻褄合せ、必死だな」

 真木が軽くつっこんだ。

「ロシヤの、最高権力者は、スタンプを押す係なのだよ。かつて、ソヴィエト社会主義共和国連邦の最高権力者が書記長だったのと、似たようなものだ」

「似てないと思いますし、似ててもしょうがないと思いますけど」

 いづみの鋭過ぎるつっこみを無視して。

「わが五ヶ年計画は、世界のロボット界に革命をもたらすであろう。そして、世界はロボット化されるのだ!」

 ブレジネフロボは、威張って演説を続けた。

「ふむ。ITの世界で五年といったら、もう大昔だがな」

「それより真木先生。ブレジネフロボの次は、アンドロポフロボとかチェルネンコロボとかが出てくるんでしょうね」

「そしてゴルビーロボで、社会主義は終わるのだ」

 いづみと真木が、ブレジネフロボの話もきかずに雑談してると。

「大丈夫。ゴルバチョフロボのあとの事も、既に考えてある。環境に優しいアルコール駆動のエリツィンロボを、我々は開発中だ」

「いや。なぜそこで環境問題に話が飛ぶ?」

「エリツィンロボの欠点は、アルコールで酔っぱらうことだ」

 真木といづみは、何となくぐったり疲れた。

次回

まりあんちゃん
一から十までの数字の中で、どれが一番、前向きでしょう。
ドクター・トミー
……なんだい、やぶから棒に。
まりあんちゃん
どれでしょうー?
ドクター・トミー
……さっぱりわけがわからんが、それでは、んー、九かね。
まりあんちゃん
……。
ドクター・トミー
ずばり、あたり、かね?
まりあんちゃん
正解。九でーす……理由は。
ドクター・トミー
窮すれば通ず、とか言うんじゃないだろうな。
まりあんちゃん
……そういう訳で、次回、「あれだ つまり 乙カレー」。
ドクター・トミー
何がそういう言う訳だ……。
まりあんちゃん
月の光は愛のメッセージ。
ドクター・トミー
……怒ってる。
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