第五話 陰謀渦巻くロボットレース

時間帯

突然だが、デカイオーの放送時間が変わった! なんと早朝枠だ。デカイオー、やっぱり視聴率が低迷してたのか??? みんな、デカイオーを応援しよう! おもちゃを買おう! テレビ局に葉書を送ろう。めざせアニメージュ人気投票なんばーわん。

字幕

 テレビは部屋を明るくして、離れて見ましょう。

op

 例の主題歌。

CM

 よく考えれば、前回、デカイオーは「深夜枠」のアニメなのか??? と書いていたのだ。深夜枠から早朝枠に時間帯が変更になったアニメなんて、過去には例がないぞ。デカイオー7つのナゾの一つと言えよう。もちろん、残りの6つの謎とは何なのか、作者は考えていない。

本編

 前回、なんだかよくわからないうちにひいてしまったデカイオー。そんなわけで、今回は前回のそのまんま続きである。


 そんな訳で(どんな訳?)整列したデカイオーとガルベースの間では依然として嫌みの応酬が続いていた。なんか前の方では選手宣誓をやってるみたいだが、真木もトミーもその手の偽善的な行為は嫌いだった。

「ふっ、認めたくないものだな、若さゆえの過ちは」

 真木が呟いた。オタクならば苦笑いものの台詞である。しかしトミーはオタクではなかったので真剣に反論した。

「いや、このマリアンちゃんがどれにしようかなで決めたんだ。こいつのデザインが悪いのは俺のせいじゃねえ!」

 ものすごい勢いで言い訳を繰返すトミーであった。

 その見苦しさに思わず見かねて(多分違う)、美人秘書マリアンちゃんが口をはさんだ。

「あのねえボス。ひとこと言わせてもらっていい?」

「黙ってろ、このニセ外人」

 頭に血が昇っているトミーは、一言のもとにマリアンの発言を封じようとした。もちろんマリアンは気にしなかった。

「なんかひどい差別発言のようだけどあたしは心が広いの気にしないわそれはともかく、真木のあの台詞はね、シャアの台詞よ。ちなみにここ、HTMLではcite要素を使って明示するところね」

 国籍不明は事実だがそんな事を全然気にしないとはいえ事実の問題としては実際のところ確かに正体不明の美人秘書マリアンちゃんであるが、どうやらその本性はオタクだったらしい。

「誰だ、シャアとは?」

 こちらはとにかくオタクネタの通じないトミーであった。

「ガンダムのキャラよ。でもなんであんなおっさんがガンダムなんて知ってるのかしら?」

「……わからん。やつめ――一体全体、この十年間の間にやつには何が起ったんだ? がんだむだと? わからん。全くわからん。わたしには全く理解できん」

 トミーは唸った。もはや自分は時代から取残されてるんじゃないかという思いで、背筋に震えが走る。でもそれは大丈夫だと思う。オタクの話が理解できない人間は、この世にごまんといる。そして、えてして非オタッキーな人間の方が幸福だったりするのだ。幸福は関係ないか。

 そして、話の本筋とは全く関係なく、マリアンはトミーの台詞につっこんでいた。

「十年間の間じゃ、馬から落ちて落馬してるよ〜ボス」

 トミーの台詞の揚げ足を取るのが趣味みたいな女である。トミーも気にしなければいいのだが、なんか気になるんだろうね。

「やかましい!」

「やかましくたって事実は事実」

「黙れ!」

「黙れといって逃げるのは男らしくないのよるんるん」

「……」

 トミー、マリアンちゃんの前に完全に沈黙。


 一方のデカイオーコックピットでは、いづみちゃんが興奮しながらなんか喋っていた。

「素晴らしいです、真木博士! トミーは言返せません!」

「ふむ、当り前だ」

 余裕たっぷりに応える真木。しかし、何でトミーの名を知ってるいづみ?

「とどめになんか言ってやりましょうか?」

「バカメ」

「は?」

「バカメ、と言ってやれ」

「トミー、真木博士からのメッセージです。バカメ、バカメ、終りどうぞ」

 この挑発的な通信に、トミーは再び怒り狂った。

「こん畜生! マリアンちゃん一人ならともかく連中までもが俺を愚弄する」

 敵も身方も区別がつかなくなっているトミー。

「だからあボスぅ〜それは沖田艦長の台詞なのよん」

「誰だ沖田艦長とは?」

 オタクのノリについていけないトミー――どう考えてもこの腐れオタク小説に合っていないキャラクターであるが、とにかく何となく作品世界に順応してしまったマリアンちゃんと違って精神的にぼろぼろになりつつあるトミーであった。


「それにしてもやるようになったわね……いづみ」

 依然真木から「坊やだからさ」だとかなんだとかしつこく通信が入ってきているがそれを全部無視して、マリアンは呟いた。


 なんだか嫌なキャラクターなのは真木の方のやうな気もしないではない今日この頃。


 さてそんなデカイオーとガルベースの口喧嘩をオペラグラスで眺める謎の人物がいた。観客席の最上段、強化ガラスで周りを囲まれた特別席――小柄で、まるで電球みたいな禿頭、なぜか紋付羽織袴という訳のわからん装束の老人である。

「来おったな、やつらめ。罠とも知らずに」

 グラスを目に当てたまま、にやりと嗤う。

「もっとも、作者も罠だと考えずに、適当に話を作っていたみたいだがな。でなければ、こんなにこのエピソードが長くなるわけはない」

 そこに、場内アナウンスが流れた。

「それでは続きまして、世界ロボット振興会会長・ドクター秋本からお言葉があります」


「ドクター・秋本?!」

 真木は、無線に悪口を一方的に喚き散らすのをやめて、顔を上げた。

「なんだか、きいた事のある名前だな?」

「私が今回の国際ロボットレースを企画・プロデュースした世界ロボット振興会会長・ドクター秋本である!」

「お父さん?!」

 いづみが大声をあげた。

「む? そうか。ドクター秋本か! 道理できいた事のある名だと思ったぞ!」

 ぽん! と真木は右手で膝を打った。膝蓋筋反射でぽこんと脚が持上がるが気にしなかった。

 しかしその時、ある事実に真木は気付いた。

「いや待てよ、……ドクター秋本?! ドクター秋本は……」

 真木は愕然とした。

 かたわらではいづみが目をうるうるさせていた。

「まさか……まさか、お父さんが……」


「わからん!」

 トミーは依然吠えていた。

「あんなに私を言い負かしていたのに、なぜ真木は無線を切った? わからん!」

「……相手にしてもらいたいだけなのかい、あんたは」

 マリアンが冷静につっこみを入れた。

「いや、違う。私は科学者として、事実を知りたいだけなのだ。有利に議論を展開してきた真木が、なぜドクター秋本の演説がはじまった途端こちらとの通信を中断したのか?」

「あの人の話をききたいんでしょ、きっと」

 白けたような口調で、マリアンは呟いた。今までにはない、ちょっとシリアスな表情をするマリアン。

「でもまあ、あの人が生きているとはねえ……」


「私はこの世界をロボットで埋めつくし、すべての人間に機械の体を与えるため、この3年間ひたすら努力を続けてきた。その結果として、今や世界ロボット振興会は世界の産業界を陰で支配するまでに成長・発展した。しかし表の世界に世界ロボット振興会の名は全く知られていない! 今こそ世界ロボット振興会は表の世界に進出すべき時である。諸君はその最初のロボット軍団の一員となるチャンスを与えられた!」

 ドクター秋本は、その小柄な体にもかかわらず、熱弁をふるった。

「ばっかみたい。何考えてるんだか」

 マリアンが呟く。しかしその傍らでは、ドクター・トミーが妙に感動していた。

「素晴らしい……ドクター秋本、なんて素晴らしいマッド・サイエンティスト……」

「たしかに気がふれてる気もするけど……何であんた、気狂いの演説に感動するのよ」

 テレビではとてもオンエアできない科白を平気で呟くマリアン。

「これだけたくさんのロボットが、世界一周の大レースを展開するのである。これで目立たない訳がない! 諸君は世界に、我らロボット軍団の存在を知らしめるのが第一の使命である!」

「結局、自分の野望の広告塔にあたしたちを使おうってんじゃない」

「ドクター秋本、素晴らしい発想だ」

「諸君には、その威容を各地に示しつつ、世界を一周してこのスタジアムに戻ってきてもらいたい」

「世界一周ね」

「そして究極的には世界征服を狙うのだ」

「ルールは簡単である! 馬鹿みたいに簡単である! 諸君は世界の七都市――ロンドン・ニューヨーク・モスクワ・カイロ・ニューデリー・北京・東京の各地をめぐり、スタンプを集めるのだ! ちゃんとスタンプ帳は用意してある!」

「スタンプ帳〜?!」

 会長の発言に、会場に居並ぶロボットたちは皆ずっこけた。

「ばかやろ〜!」

「俺たちゃガキの使いじゃねえんだぞ〜!」

 喧々囂々。

 そんな中、ガルベースがすっと前に出た。トミーは脱力している世界各地の代表ロボットたちに向けて演説をはじめた。

「黙れ、諸君! これはわがロボット軍団候補生に与えられた試練なのだ。会長は世界の価値の転倒を企んでおられるのだ。よいか、今回我々に与えられた使命は簡単である。まるで子供の使いみたいに簡単なものである。しかしこれは、大人達への復讐の第一歩なのである。今回のレースの主旨を理解しないものどもは、あえて言おう、カスである、と! 世界ロボット振興会の理念は従来の価値を信奉するものどもに正義の掣肘を与えるであろう。ジーク・秋本!」

「あんた、ほんとはガンダム知ってんじゃない?」

 あきれ顔でマリアンが呟いた。

 次の瞬間、会場のロボットたちは騒ぐのをやめ、偉そうに演説をぶっていたガルベースに一斉にブーイングを浴びせかけた。

「時代錯誤!」

「旧式!」

「ポンコツ!」

「クズ!」

「粗大ゴミの日に出せ!!!」

「科学者の面汚し!!!!!」

「と言うかガルベスじゃねーだろそれ!!!」

「作者もこんがらがって、今は武蔵丸のイメージで書いてるらしいな」

「まあ何となくどっちも弁慶っぽいが」

「ちょっとダイアポロンっぽくもある」

「いずれにせよ、よくある敵のやられメカだな!!!!!」

「ベタだねーうnうn」

 実を言うと、ガルベースは武蔵坊型弁慶ロボなのである。トミーは知らなかったがまあ何となくうすうす感づいてはいた事ではあった。しかし彼もそこまで叩かれるようなデザインとは思っていなかったのである。

「……」

 激しく非難されてトミーは困惑した。ひでーとは思いつつもまあこれはこれでありかなくらいには思っていたのである。


 会長の演説は、トミーの演説で中断されたまま終ってしまった。なんか会長は、フラストレーションがたまっていたようだったが、雰囲気的に何を言っても余計な事になりそうだったので、黙って引下がったようだった。ま、そういうことってよくあるやね。


 罵倒を浴びまくってすっかり落込んだトミーは、狭苦しいコクピットのすみにしゃがみこんで、床にのの字を書いていた。マリアンはその背中に、無情な言葉を投げかけた。

「ボスって、ほんと、馬鹿ね。何でああやって無意味に敵を作る訳?」

「……」

「いいこと? レースなんてみんな互いに敵なのよ。これってどういう意味かわかる?」

「……ならいいじゃねえか、敵を敵に回したって」

 上目遣いで操縦席に座ったマリアンを見上げるトミー。そんなトミーに、ちっちっと指を振って見せるマリアン。

「甘いわね。お互いに敵同士という事は、敵の敵がいっぱいいるって事よ」

「?」

「敵の敵は身方。まわりはみんな身方だらけなんじゃない」

 ふふん、とマリアンは鼻を鳴らす。

「ばっ馬鹿を言うな。それは詭弁というものだ」

 思わずトミーが反論する。

「詭弁? そうでもないのよ。レース参加者は一蓮托生。とりあえず互いに仲良くしておいて、仲間に入ってこない嫌なやつをみんなしてレースからはじき出していく――それがセオリーってものなのよ」

 そう、競争は非人情的なもの――マリアンは心の中で呟いた。

「……マリアン、お前……」

 トミーは寂しげな表情を見せるマリアンに戸惑いを覚えていた。

「お前、前回までと、キャラクターが変わってるな」

「ふふ、いつまでもあっぱらぱなままではいられないわ。なんか知らないけど、話が停滞している間に現実世界は年を越してるし」

「確かに」

 苦笑するトミーと作者。

「それに……」

「つぎー。ガルベースくん」

 マリアンの言葉を遮るように、呼び出しのアナウンスがかかる。マリアンは口を噤むと、ガルベースを操って前に出させた。

「はい、スタンプ帳。なくさないように。あと、雨に濡らさないように」

 主催者側のロボットはガルベースに、長さ5メートルはあろうかという巨大なスタンプ帳を手渡した。

「……それに、話自体が間抜けすぎる展開を見せている訳だし、そこでボケたって目立たないじゃない」

「そういう問題か?」

 トミーがつっこんだのに対して、マリアンは寂しげな微笑みを返しただけであった。


 デカイオーも呼ばれて、スタンプ帳を手渡された。

 スタンプ帳にはストラップがついていたが、デカイオーは腰のポシェットに大事にしまった。なんか知らないがデカイオーにはポシェットが標準装備なのだ。何を考えているんだろうね。まあいいけど。

 あとは出発時刻がくるのを待つのみ――会場の控え室でいづみと真木はお弁当を広げた。

「博士、きんぴらどうぞ」

「うむ。みりんがいい味を出してるな」

 だからなんだというつっこみは不可。


ところで、トミーもまた、ニセ外人である事は、前回を読めば自明であった。作者であるところのこの私、野嵜は、再びこの文章を書かねばならない――人は自らを否定すべき文句で以て他人を罵る、と。

次回

 「よ〜いドン」のコールが会場を流れる。一斉に歩み出す巨大ロボットたち。轟音、轟音、また轟音。そんな中、ドクター秋本の陰謀が形をとりはじめる。

 次回「ロンドンはいつも霧雨」。こうもりがさはロンドンっ子のデフォルトアイテム。

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