テレビは部屋を明るくして、離れて見ましょう。
例の主題歌。ちなみに監督(誰だ?)の名前が大写しになる。
なぜか武富士。つづいてデジキャラットちゃん。するともしかして「デカイオー」は深夜枠アニメなのか?!
画面がすっと明るくなる。そこには……
メカが並んでいた。
……
「納得がいかん」
メカどもを前にして、すっくと立つ白衣のチビ科学者・ドクター・トミーがわめいた。
「なんか違う。これでは前回までの、なんだか造形もなんも考えていない、思いつき的ないいかげんメカと全然イメージが違ってしまうではないか」
トミーは悩んでいた。「頑健魔神ガルベース」として採用するには、目の前に並ぶメカたちは、どれもなんかイメージが違っていた。違っていたっていいような気もするが。
そこにマリアンがスキップしながらやってきた。あいかわらず、何の悩みもなさそうなキャラだ。
「どーでもいいじゃないですか〜ボス。難しい事考えてる暇あったら、さっさとメカ、選んじゃわないと、国際ロボットレースの出場に間に合わないざんすよ〜」
らったった。しかし相変わらず国籍不明である。
「おい、わが美人秘書・マリアンちゃんよ。ここで何で踊る」
「しらな〜い。作者の思い付きでしょ」
「そうか。なるほど」
一介の小説の登場人物が、そういう説明に納得しないように。
「もうレース開催まで、残り時間は18時間を切ってます〜はやく、はやく!」
るんたった。マリアン、爪先だちして、くるん。
「それにしてもお前、事態はせっぱつまってるってのに、やけに楽しそうだな」
「うん。だって、絶対レースに出なきゃなんないの、ボスだけだもん。あたしには関係ないもんね。ひとごと、ひとごと。るんたたた」
いやなやつですねーマリアン。トミーは頭を抱えた。
「くそ。どれにしたらいいんだ。迷っているヒマはないのだが……」
「罪深き、迷える小羊よ〜懺悔なさい――なんつって」
「うるせえ」
「うるせえはないでしょ、ボス。人のアドヴァイスはきくものよ」
「お前のアドヴァイスが役に立つか?」
「いいわよー。きかないでおいてあとで後悔したって。もっとも、先に後悔する人なんていないけど」
にこにこ。
「……まあいい、言ってみろ」
「言ってみろ? へー偉そうに」
「俺は偉いんだ。お前のボスなんだから」
「チエの輪も外せないくせに」
「なんだと!」
「わたくしに提案があります」
トミーの目の色が凄まじく変わったので、マリアンはトミーをからかうのを止めて、真面目モードに入った。一瞬でボディコンスーツの上に白衣をまとい、なぜかつけぼくろまでした。
「おお、今日はリツコバージョンできたな」
「ええ、今回のプロジェクトの要旨を説明させていただきます」
「プロジェクトってほどでもないが」
「そうですね。そのとおりです。ボスの考え過ぎです」
「なに?」
「深く考えること、ないでしょ。ここにあるメカ、みんなどれだって似たようなもんなんだから、どれにしようかなで決めちゃえばいいじゃん」
マリアンは手にした書類をぱっと散らした。
「どーれーにしーよおーかなー」
へんな節回しをつけた呪文(謎)を唱えながら、はじのメカから順に指差していくマリアン。
「て〜ん〜の、か〜み〜さまの、ゆ〜う〜と〜お〜り〜。な〜〜の〜〜な〜〜〜のなあ〜〜〜〜〜はい決り」
「勝手に決めるな〜〜〜!」
トミーは怒号したが、結局ほかに決め手がなかったので、マリアンの決めたメカが「頑健魔神ガルベース」に決定した。
トミー、やっぱり自己本位とは無縁の日本人なのであった。
さて一方、こちらは真木の研究所。
「弱った」
いきなり弱ってる真木のおっさん。どうした?
「よわった〜〜〜!」
叫んでみたりしている。そんなことしたって、事態がよくなる訳でもなかろうに。
「ぬおお、私は今、猛烈に弱ってる〜!」
地団駄を踏んでみる。そこにこの小説の、前回の前半まで唯一の華だった秋本いづみ16歳がやってきた。似たような光景が今回の最初のパートにも見られるが、やさしい読者は細かい事を気にしてはいけない。いじわるな読者はいらない(重要)。
「どうなさったんですか、先生? また何かお困りのことでも?」
心底心配しているかのような表情を浮かべて、真木の顔を見つめるいづみ。ちなみに今回のいづみのファッションは、なぜか油のついた作業衣姿だ。片手にレンチなんか持ってると吉。
「いや……きみにはまだわからぬことだ」
腕組みして、頭を振る真木――そして溜め池じゃなかった溜め息をつく。
「そんな。わたしは先生のお役に立ちたいんです。わたしにはわからないかもしれないことでも、それを話してしまわれたら、ひょっとしたら先生の心の重荷は軽くなるんじゃないでしょうか?」
いづみの瞳は本気であった。彼女はいつでも本気なのである。真木は思わず額に一筋の汗を垂らした。
「ね、先生。わたし、先生のためなら、何だってやります。お願いです、悩んでいらっしゃることがおありでしたら、わたしに向かってそれを吐き出して下さい」
いづみの目の縁には、涙の玉ができかかっていた。
「……うむ、実はわが漢文研究の成果であるこの巨大ロボット・デカイオーが、今日に限って動かないのだ」
目を閉じ、俯き加減でニヒルに言う真木。なんか言ってる事は目茶苦茶だが。
「先生! しっかりなさって下さい! 先生は漢文研究の第一人者なんですよ。先生のつくられたロボットが動かないはずがないじゃないですか?! もっとご自分に自信を持って下さい」
ここでいづみは、自分と自信(自身)をひっかけたダジャレを言っているつもりではないようである。というか、文章を書いてから「これはダジャレでないだらうか」と思わず呟いた作者の妄想だからどうでもいいことなんだが、いずれにせよ、漢文研究と巨大ロボットの間の因果関係なんてある訳ないということを、何でこの娘は気付かないのだろうか。作者がそういう風にキャラクターを操っているからだ。
「さあ、気を取り直して、もう一回デカイオーをチェックしてみて下さい。もうレース開催まで残り18時間を切ってるんですよ!」
なんだか、どこかで聞いたような台詞を言ういづみ。
「先生は配電盤をチェックなさって下さい。わたしはメインコントローラを調べますから」
工具箱を抱えてエレベータに乗って上り、デカイオーの胴体のメンテナンスハッチを開くと、手際よくいづみはチェックを始めた。
「ほら、先生。時間がなくなりますよ!」
「……ああ、わかった」
そして真木はもたもたと操縦席に上がって、シートのうしろの配電盤をいじくりはじめた。
しばらくして、いづみが声をあげた。
「わかりました、ここがだめになってます!」
すごい。何でわかるんだ、いづみ?
だがそんな疑問もものともせず、真木はとことこいづみの脇にやってくると、その故障個所を見て納得していた。
デカイオーが起動しなかったのは、デカイオーのメイン思考回路がショートしていたからだった。今すぐ誰かに会いたかったのだろうか?(謎)
しかし修理しているひまがないので、真木はやむを得ず非常用の強化パーツ・ムーンティアラをデカイオーに装着し、セーフモードでむりやり動かすことにした。
「先生、こんなんで本当に大丈夫なんですか?」
「いや、心配だ。だからいづみくん、レース会場まで君が操縦桿を握っていてくれ。飛んでいる間に修理する」
……そんな事が可能なのか? 極一部の、とてもまじめに本作を読んでくれている読者は、疑問を持った。
しかし今、現に、いづみは、マッハ2.4で飛ぶデカイオーを平然と操っていた。大丈夫なのだった。まじめな読者諸氏には、安心していただきたいと申上げたい。どうでも良いと思っている大多数の読者は、気にしないで下さい。
真木は汗だくで思考回路の修理をした。
国際ロボットレースの会場に着くのとほぼ同じに、修理は終わった。だが、すぐに開会式が始まるので、恥ずかしい形をしたムーンティアラを真木はデカイオーから外すひまがなかった。
「でもいいじゃないですか。かわいいですよ」
いづみは真木を慰めた。
開会式はロボットたちの入場行進で始まった。赤と黄色と青のカラーリングがなされたロボット、迷彩色のロボット……なぜかスケルトンボディのロボットもいた。意味もなく発光ダイオードが使われていた。ホルスタインのまだら模様をしたロボットもいた。そいつは歩きながらグッズを配っていたが、あとできくところによると、それは回収になったそうだ。
さて、我らがデカイオーと、トミーのガルベースは、同じ日本代表ということで、並んで行進することになった。
「お、トミー。今回はなかなかエキセントリックでエキゾチックなデザインのロボットだな。素晴らしい」
そう真木が褒めれば、
「いやいや、今日のデカイオーはかわいいアクセサリがついてて、なかなかだな」
とトミーが応ずる。
嫌みの応酬が同じ日本代表同士の間で始まっていた。が、日本代表はほかにももう1機あって、本命はそっちだったので、わけのわからんデカイオー(に乗った真木)とガルベース(に乗ったトミー)がスピーカごしにねちねちとした言葉を交わしてもみんな気にしなかった。いや、うるさいことはうるさいのだが、今時のロボットの操縦席は防音されているから大丈夫なのだった。(そうなのか?)
なぜか「黄色と黒は勇気の印……」という曲が行進曲代わりに流されていたが、それはどうでもいいことだろう。なにしろこの曲に合わせて行進するのは無茶なので、みんな適当にのそのそ歩いていたからである。そういう問題じゃないだろ? というつっこみは可能だが、しなくていい。どうせこれは小説なんだから、どんな曲が使われていようが構わないじゃないか。
ゾ●ドみたいなの、ト●ンスフォー●ーみたいなの(超ロボットとビーストと両パターン)、なぜかロ●ット8ちゃんみたいなのやロボ●ンみたいなのもいた。なんちゃってベルゼルガもいた。
そんな中でも異彩を放つのが、我らがデカイオーとガルベースのコンビだった。
ムーンティアラを装着しているにもかかわらず例の如くろくでもない造形のデカイオーはいいのだが、ガルベースはひどくアレな出来であった。
ガルベースの操縦席で、トミーが呟いた。
「おいマリアン、お前何でこんなのを選びやがったんだ?」
「あたしが選んだんじゃないもーん。神さまが選んだんだもーん。あたしに責任ないざんす。さいざんす。OK? ユーノウ? あたしはゆうのうな秘書よーん」
狭い操縦席のシートに、なぜか二人は並んで座っていた。
「馬鹿野郎。お前が有能な訳がないじゃないか」
「あたしが有能だってことは事実なの。反論したいのなら、証明してみな」
「毎朝俺を相手に遊んでるじゃないか」
「ボスを手玉に取れるくらい有能ってことよーん」
「俺は手玉に取られてない! 第一、俺がお前に命令を下す立場なんだぞ」
「そーよね。あたしなんか、こんな下らないイベントに連れてくることないのにわざわざ嫌がらせのために来いなんて命令くだしたりて、そんでもって操縦席が無闇に狭苦しくなって、困ったことになってるくせに」
「……お前が場所をふさいでいるんだ、少しはダイエットでもしろ」
「あたし、ボスより身長15センチ高いのに、体重はあたしの方が軽いのよ〜ん」
「頭の中身も軽いくせにな」
「そんなこと言えるのあんた? チエの輪も外せないのに」
「なに?」
「あっ左90度方向転換! 整列ライン!」
いちいちトミーの気にさわる事をねちねち言い続ける嫌みなマリアン――しかもいざトミーが怒りだしそうになると、さっと気をそらしてしまうあたり、海千山千といった観がある。(謎)
それにしても、トミーもこんな女、さっさと解雇しちまえばいいと思うのだが、それができないわけがあるのだった。いや、そのわけを作者はまだ思いついていない。そのうちもし思いついたらきちんと語ろう。思いつかなかったら書かないでしらばっくれる予定。
開会式。そこに現れた国際ロボット学会会長は、真木とトミーの共通の知人だった。嫌らしいジト目の応酬――そして、どうでもいいような因縁の渦巻く中、レースが始まる。次回「陰謀渦巻くロボットレース」。マリアンといづみの間に会話は成立するか?