第三話 奈落の底から今日は

字幕

 テレビは部屋を明るくして、離れて見ましょう。

タイトルロゴ・鋼鉄面皮デカイオー

CM。セイカのデカイオーノート新発売。

おおっ、opナシだ!

前回までのあらすじ

 画面を二分割して、早回し――をやろうとしたら納期に間に合わなくて、画面が真っ暗。


 それでもって、このあとに真木博士が電車の中で自分と対話したり、それを縦線と横線で表現したりするシーンがあれば完璧。第13話あたりで総集編として切り貼り小説をやってみようという意思が作者にはあるのだが、それまでこの下らない小説が続くのかどうかは不明。

ちなみに最終回は、真木博士と、ドクター・トミーが体育館でまわりの連中に責めたてられながらぐだぐだ喋って、でもなぜか最後には拍手されて「おめでとう」と言われてちょん。真木の笑顔がラストシーン。嫌ですねー。妄想終り。

本編

 今日も真木博士は元気だ。机にはりつき、山と積まれた資料に埋もれて、原稿用紙にペンを走らせている。何を書いているのだろう。ちょっと覗きこんでみよう。

子曰。攻乎異端。斯害也巳。

或問。攻乎異端。斯害也巳。何也。

朱子曰。攻者。是講習之謂。非攻撃之攻。這處須看他如何是異端如何是正道。異端不是天生出來。天下只是這一箇道理。縁人心不正。則流於邪説。習於彼必害於此。既入於邪必害於正。異端不止是楊墨佛老。這箇是異端之大者。

これが読めた人、あなたは偉い。かも知れない。

 前回前々回を最後まで読んだ人は知っている筈だが、読んでいない人は知らない筈の事実――それは、この真木博士は漢文研究家であるということである。珍しく今回真木博士は、まじめに本業に取組んでいるのであった。しかしその博士の背後に、巨大なデカイオーが突っ立っていた……。

 こんこん。

 ノックの音。

 真木博士が顔を上げる。

「なんだ?」

「お茶をお持ちしました。それから……」

「入りたまえ」

 扉が開く。現れたのは、この低レベルギャグ小説唯一の華、秋本いづみ16歳であった。ちなみに彼女の星座は射手座だ。血液型はO型である。

 もこもこの白いコットンシャツにレザーの黒いパンツというちょっとアンバランスなファッション。ちなみに今日のいづみは眼鏡ッ娘である。乱視気味でいつもはコンタクトレンズだが、今日に限ってなぜ眼鏡?

「ほほう。今日のいづみくんは知的に見えるね」

 意地悪娘なら、いやみは止めて下さいと言うところだが、いづみはほんのり頬を赤らめた。素直ないい娘である。

「いやですよ、先生ったら。はいどうぞ」

 いづみは手にしたトレイからコーヒーカップをとって、真木の机に置く。ちなみに原稿用紙と資料と屑の隙間に丁度カップを置けるだけのスペースが、一瞬の間に出来ていた。意地悪オヤジなら、さっききみはお茶と言ったじゃないかとつっこむところだが、真木は嬉しそうに頷くだけである。そして、にこにこしながらにこにこして真木を見つめるいづみを見つめかえした。

 何をやっているんだか、この二人。真木はにこにこしながらカップを手にして一口のむ。それにしても、その背後にはデカイオー。

「ああそう、忘れてました。これ、世界ロボット振興会からのお手紙です。さっき届きました」

「何? 世界ロボット振興会だと?」

 真木はちょっとびっくりした表情をしながら、葉書を受取る。

「なんでも国際ロボットレースへの招待状だそうですけど」

 相変わらずにこにこしているいづみ。お前、漢文研究家のところに「世界ロボット振興会」なんてところから葉書が来るという理不尽に気づかないのか。

「先生も最近、学会からすごい反響呼んでらっしゃるんですね」

「うむ……」

 真木はひきつった笑顔を浮かべた。頬に汗を一筋流している。

「今回は世界ロボット振興会ですって? 真木先生の名前も世界の漢文学会中に轟いていらっしゃるんですね! すごい、すごい!」

 はしゃぐいづみをみながら、さすがに真木もどっと疲れを覚えた。泣く子とコギャルには勝てない――いやいや、いづみはガングロでもないし変な靴下を穿いたりもしていないのでコギャルではないかも知れないが、それはどうでもいいことだ。一説にはいづみはオタクではないかとも言われていることだし(謎)。


 さて一方、ここは西武新宿線鷺の宮駅近く――ここには鉄筋コンクリート12階建の堂々たるビルディングがある。表に、トミー国際発明研究センターという不敵な看板がかかっている。この小説の読者はこれを見て、ここがドクター・トミーの本拠地だということを即悟らなければならない。トミーと書いてあるが、ドクター・トミーとは無関係である可能性があると言い張る連中もいるかもしれないし、もし関係があるのならば具体的な証拠を示せという野郎もいるかもしれないが、作者はそういうこうるさいやつはきらいだ。

 それに、そのトミー国際発明研究センターの所長室を見れば、トミーとの関係は疑いえぬものとなろう。なにしろ「所長」と書かれた席に、ドクター・トミーは座っているのである。もっとも、「所長」と書かれた(以下略)

 トミーは真剣な眼差しで手にした金属片を見つめていた。ちょいちょいとひねくってみる。ねじってみる。からめてみる。その時そこに、金髪の背の高い美女が入ってきた。緑色のスーツを着ている。かなりボディコンシャスだ。

「はぁい、ボス。ぐっもーにん」

「おお、秘書のマリアンくん」

 説明的にしてわざとらしい台詞を吐くトミー。それにしても秘書のマリアンとはひどいネーミングだよな>俺。

「レターがきてますですのん、よござんすかあ、よござんすねえ」

 既になに人だかわからないトミーの秘書マリアンだった。しかしドクター・トミーが気にする様子はない。

「手紙?」

「いえーす、ボス。レター、レター」

 だんだんトミーの気が散ってきた。金属片をいじくる両手の動きが止まった。

「これが噂のレターざんすよ。日本語で言うと手紙」

 元気よく葉書を振回すマリアン。トミーは諦めた。

「うるさいぞ。そこに置いておけ」

「そこってどこですのん?」

「……」

 しかたなくトミーは手の金属片を机において、マリアンから葉書を受取る。その葉書は、大方の読者の予想通り、世界ロボット振興会からの「国際ロボットレースへの招待状」である。

「ううむ、来てしまったか。よりによってこんな時に……」

 一方、トミーがその葉書をためつすがめつ見ている間に、マリアンは机に置かれた金属片を取上げた。

 ちん!

「おー、もーれつ!(謎)」

「ああっ、マリアンくん、きみはなんてことをしてしまったのだ!」

 トミーが蒼白になる。

「簡単でしたわよん、このチエの輪」

 一部の読者の予想通り、チエの輪であった。

「ううう……せっかく楽しんでたのに……で、どうやってはずした?」

 きくなよお前。

「簡単ですわよおん。こんなの、猿だって一瞬でできますのん」

「……」

「ほおら、こうやって、こうして、これをこうして、……」

 チエの輪をはめたりはずしたりして、楽しそうに踊るマリアン。トミーは今日もまた深く深く傷ついていた。というのは、トミーは毎朝違うチエの輪に取組んでいたが、一度もはずせなかったからである。毎朝マリアンがはずしてしまうのだ。恐るべし、マリアン。しだいに怪しげな踊りになりつつある。と、突然。

「それはそうと、浮かぬお顔じゃあ〜りませんか、ボス?」

 踊りを止めたマリアンが、トミーにたずねた。でも怪しげなポーズをとったままだ。

「そうなんだ、マリアン」

 口の前あたりで両手を重ね肘をつく、ゲンドウ風のポーズをとるトミー。小説でそんなことをしても口パクのセルを省略できる訳もないので無意味なのだが、トミーは最近この恰好をして喋るのにハマっている。

「困ったことになった。というのは……」

「世界ロボット振興会の国際ロボットレースの招待状がきたのに、出場させるべきロボットがないのでございますね」

 ちゃんとした日本語で喋るマリアン。しかもいつの間にか秘書らしいぴしっとした姿勢になっている。

「……お前なんで俺の言いたい事がいつも、いつも、いつもわかるんだ? しかもなんかちゃんとした恰好すればミサトさんみたいだし」

「わたくしはこれでもトミー様のセクレタリーでございます。ボスのために日本語に訳してさしあげますと、秘書です。ですからわたくし、常にトミー様の考えておられる事をテレパシーで感知しております」

「そ……そうだったのか」

 おおげさな驚きポーズをとるトミー。

「そうか、なるほど。お前はテレパシストだったのか。うむ、そう考えればすべてのつじつまは合うな」

「いやですよん、ジョークですよう。ちゃあんとツっこんでくんなきゃ、ボスぅ。毎朝のことじゃないですかぁん」

 突然拗ね拗ねモードに入るマリアン――両拳を手許に当てて、くねくね腰を動かす。何考えてるんだか。

「いやんいやん」

「う〜〜〜」

 どっと疲れが出て突っ伏すトミー。

「頼む……頼むから毎朝毎朝、私で遊ぶんじゃない……」

「遊んでませ〜んお仕事で〜す」

 トミーは頭を抱えた。

 もはや小説は目茶苦茶だ。頭を抱えるのはトミーだけではなかった。作者もどうしようかと思った。書直してやろうかと思った。

「それでですね、どうせですから、今回のロボット選定には、オークションじゃなかったオーディションを行うのはどうでしょうか」

 突然マリアンが真面目秘書モードに戻った。ありがたや、こういう気まぐれキャラは、困った時に話を進めるために無理なセリフを言わせても不自然にきこえない。(ほんとか?)

「オーディション?」

「そうです。オーディションです。別名入団試験ともいいます」

「入団試験?」

「ええ、我々は表向きトミー国際発明センターを名乗っていますが、確か裏の世界ではドクタートミーと愉快な死ね死ね団というんでしたよね?」

「言うわけねえだろ」

「まあいいじゃないですか、仮に我々を死ね死ね団ということにして、我々が使うロボットを選ぶための試験を行うとする、するとそれは入団試験ということになるじゃあ〜りませんか?」

「……ならねえぞ、仮定に仮定を重ねてどうするんだ」

「一を聞いて十を知るって諺もあるじゃないですか」

「それがなんなんだよ」

「いやですよぅボス。ボスはつっこみ役なんですからぁ」

「そういう話じゃ……」

「いいんです。この辺、作者ももはやなんかなげやりな気分になって地の文も省略しちゃってることですし、我々だけで適当に話すすめとけば」

「いやだからね……」

「だからもう、わかんない人だな。ボスは黙ってついてくりゃいいのよ」

「あの」

「ええいうるさい。黙れ!」

「黙れって、俺がボスだぞ」

「知るかよ。こんにゃろ」

「こんにゃろだと? おいマリアン、お前図に乗りすぎだ」

「そりゃそうよ、ボス。ボス、さっきチエの輪に熱中してる最中に図を落してたのよ」

「?」

「それでね、それであたし、今、図を踏んじゃってんの!」

「図を踏んじゃって……って、すると」

「そう! あたしは今、図に乗っているっ!」

「言いたいことはそれだけか〜〜!」

「そっおでーす。いっつあじょ〜く。らららん。バンザーイ、バンザーイ!」

 ドクター・トミーは頭を抱えた。マリアンは踊り狂っている。背後には、いつの間にやら白衣の所員が出現して、紙ふぶきをまいていた。

なんだか収拾のつかないことになったトミー国際発明研究所所長室であった。


ちなみに、あとで掃除が大変であったそうである。

次回

 さあ、いよいよ決戰の日迫る! 世界ロボットレースまであと少し! 今回はガルベースが出てくるところまでいかなかったが、っていうかそもそもトミーはガルベースを開発してないんだけど、しかし自壊じゃなくて次回こそ、トミーは頑健魔神ガルベースをオーディションで選びだし、公の場で真木への反撃に出るであろう。

それにしても恐るべし、思いつきキャラマリアン。書いてるうちにお筆先で作ったキャラだと読者の誰が気づこうか。気づいていても気にするな。なんだかよくわからないこの女を作者は妙に気に入ってしまったので、どういう訳か次回からレギュラー入りすることが決まった。とりあえず予告だけはしておこう。さあ、書けば書くほど訳がわからなくなるこの小説、次回のタイトルは「すすめ諸君! 栄冠はわれらの手に」。とりあえず、この小説の「次回予告」があてにならないことだけは事実のようだ。

 戦え、真木博士! ゆけ、恐怖のオヤジロボ・鋼鉄面皮デカイオー!!

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