残酷な天使のように
俺はさ迷う、見知らぬ街を
思い出してごらん、誰にも見える
まだ怒りに燃える闘志があるなら
もう帰れない、もう戻れない
鋼鉄面皮デカイオー!
デカイオーふりかけ新発売!
実は前回言い忘れていたのだが、この時代は金未来である。もとい近未来である。そして設定上、なんとソ連が依然存在し続けているパラレルワールドなのである。具体的に何年かというと、2014年だったりする。残念ながらセカンドインパクトは発生していない。ゆえに第三新東京市も存在しない。
一方で、デジタル放送が実用化されていないために、この世界ではアナログテレビ放送が主流である。しかしご他聞にもれず多チャンネル時代が到来していた。何でそうなったかというと、オタクが増えて、アニメチャンネルが乱立したからだった。
オタクは当然、映像クオリティを求めるものなので、難視聴区域を減らすことが急務となっていた。そのため東京タワーに続き、駒込に第二新東京タワーが、そして高田馬場に第三新東京タワーが建設された。オタクパワーはすごいので、第二東京タワー、第三東京タワーと呼ばずに、第二新東京タワー、第三新東京タワーというふうに「新」を間に入れて呼ぶ事になったのである。意味不明。
ちなみに、この時代のテレビは、週に200本以上の新作アニメがオンエアされている。嫌な時代である。アニメータの賃金はいまだに東京都の定めたる基準に合格せぬレヴェルである。だからアニメ制作会社は就職情報誌に広告を打てない。閑話休題。
その第三新東京タワーのある高田馬場駅前。ストリーキング男の描かれたBIGBOXと道をはさんだ反対側に、第三新東京タワーはそびえたっていた。ちなみに第三新東京タワー名物は甘栗である。なぜかは一度高田馬場に来てみればわかる。ちなみにこのタワーにもルノアールが入っている。ババ4軒目のルノアール。
そこが今、危機にさらされていた。いや、ルノアールではなくてタワーがだ。上半身の発達した、無骨というよりは筋肉質なロボットが今、嬉々としてタワーに迫りつつあったのだ。ちなみに、前回に引き続きわかりにくいが、危機と嬉々のだじゃれだ。
マジンガーZもマッチョっぽかったが、あれよりも極端にデフォルメされたロボットだった。どうでもいいが、筋肉質な胸も、見方を変えれば豊かな胸である。マジンガーZおかまロボット説というのを今思いついたが、それはどうでもいい。閑話休題。こればっかり。
おかまロボット(違)はしずしずと神田川を下ってきた。いや、橋はみんなぶち壊していたから結構派手なことをやっているのである。あとで橋を架けなおすとき、新宿区と練馬区のどっちが金を出すのかでもめたが、それは別の話だ。閑話休題その3。いいかげんしつこい。
さて、ロボットは南こうせつの歌を歌いつつ(大違)、いよいよ山の手線なんかの通っている鉄橋をぶち壊し、パチンコ屋と飲み屋の入っているビルを蹴倒して、駅前ロータリーにやってきた。山の手線は全線で不通になった。でも都営12号線(環状部)では、代行輸送できねえだろうな。あれ造っても無駄だと思う。閑話休題その4。
駅前ロータリーにパトカーが集結。機動隊が楯を構えてロボットの前に立ちふさがる。一気に緊迫の度合が増す。ロボットは停止。ちなみに今回のロボットは超短足だ。
機動隊の隊長は拡声器でロボットに呼びかけた。
「こら、そこのロボット、無駄な抵抗はやめて投降せよ、繰返す……」
するとロボットの頭のてっぺんが開いて、中から白衣の人物が顔を出し、怒鳴りかえした。
「馬鹿者、私はまだ抵抗をしていないぞ」
おお、誰かと思えば、ドクター・トミーではないか! いや、わかりきってはいるんだけれども。
「無駄な抵抗はやめて投降せよ」
隊長は平然と言葉を続けた。そして、言葉を切ると、にやりと嗤った。奥歯と眼がぎらりと光を放つ。何とも嫌みったらしい表情であった。のちに本人が語った所によると、トミーが肉声だから、拡声器を持つ自分が負けることはないと判断したのだそうだ。心理学的に納得のいく答えである。(そうか?)
とにかく、ドクター・トミーはそれを見てかちんときたのだから、確かに隊長の心理分析が正しいことは証明された。あんまり意味はないけれども。
「この野郎! 私はやかましいのが嫌いなのだ。近所迷惑にならぬよう、騒音防止に気を配っているのがわからぬのか!」
その時、別の方角から、声がきこえてきた。
「ビルや橋を壊しまくることは近所迷惑ではないのかね、ドクター・トミー!」
「む、この声は!」
ドクター・トミーが唸る。その唸り声がそこらへん一帯に響きわたる。別に唸るときにまで大きな声を出す必要はないのだが、トミーはパフォーマンスモードに入ってしまっていた。
「ふふふ、待たせたな、ドクター・トミー。正義の巨大ロボ・デカイオーここに見参!」
デカイオーが天空から現れ、BIGBOXを踏み潰した。どかーん! 機動隊の隊長は頭を抱えた。
「おう、お前の出てくるのを待っていたのだ。機動隊の隊長などよりも真木、お前の方が口喧嘩しやすいからな。あの隊長は口が達者でかなわん」
トミーが掃き捨てるように、いや吐き捨てるように叫んだ。
「そうか?」
真木博士は冷静につっこみを入れた。しかしかえってトミーはむきになって反論し始めた。
「そうなのだ。あの隊長は、無駄な抵抗はやめて投降せよ、という、ただ一言を言っただけなのではない。そこには深遠なる哲理が見られる。これを専門用語で行間を読むという! わかったか、真木」
「違うと思うぞ」
「違わぬ! 私の辞書に誤読の二文字はない!」
「どこの辞書を使っておるのだ?」
「新明解に決まっておろうが」
「新明解? わっはっは。金田一はあてにならん」
「なる。金田一博士は立派だ。なにしろ八墓村に行ったのだからな」
違うぞ。
「なるほど」
デカイオーは腕を組み、納得するようなポーズをとった。納得するなよ。
「だが、ロボットの性能では我がデカイオーの方が上だ。覚悟!」
「ぬおお」
いきなり両腕をぶんと開き、デカイオーは胸からミサイルを発射した! 突然のメカ戦開始に、駅前は騒然となった。
「卑怯な!」
ドクター・トミーがコックピットのふたを閉じながら真木をなじった。
「卑怯ではない! 貴様の方こそ卑怯ではないか! お前は金田一と言ったぞ、金田一! トミーよ、貴様は最低だ」
この真木の返答に、機動隊長が思わず叫んだ。
「わけわからんことを言うんじゃない!」
トミーと真木は無視した。のちに隊長は、自分の主張が余りに正しいので、トミーと真木は沈黙せざるをえなかったのだと述べている。きっと心理学的に正しいのだろう。しかし心理学はトミーと真木の狂気に蹂躪された。
真木は叫んだ。
「くらえ、デカイオーのミサイルは熱いぞ!」
ちなみにそれは、胸から発射されるおっぱいミサイルである。胸に空いた空洞は自動的に埋められる仕様になっている。どういう原理なのかは聞いてはいけない。閑話休題。もう6回目か、いや5回(誤解)だ。
つまらぬだじゃれを嘲笑うかのように(違)、ドクター・トミーのロボットめがけておっぱいミサイルが飛ぶ! だが。
「ふん、わが豪腕魔神マツザカーに、そんなものがきくと思うな! くらえ!」
トミーのロボット・マツザカーが右手をぶんと振った。何かがその手から放たれた。そして、次の瞬間。
「おお、わがおっぱいミサイルが粉砕された!」
真木が叫んだ。ちなみにデカイオーの拡声器は生きているので、駅前におっさんのだみ声が響きわたる。機動隊員たちは、耳を押さえた
「わはは、驚いたか。マツザカー必殺、消える魔球だ! 前回の反省で、上半身、特に腕のパワーを強化したのだ」
「直接、デカイオーとの力くらべを避けたのか」
「そうとも言う」
ちなみにトミーはふたの閉じたコックピットの中からがなりたてている。デカイオーの拡声器を通した真木の声と同じくらいの音量である。マツザカーは拡声器を装備しなかったかわりに、コックピット自体の形状から、操縱者の声が反響して外部にものすごく大きな声になって響きわたるようになってしまっていたのである。
「ふっふっふ。ならば貴様の負けは決まったな、トミー!」
「なに?」
「貴様は戦わずして負けを認めたのだ。貴様の負けだ」
「ぬおお……」
トミーの苦渋の声。
「いさぎよく腹を切れ!」
真木の叫びと同時に、デカイオーは背中に背負った剣を抜き、構えた。なんかせりふと行動がちぐはぐだが、この人たちにそういう指摘をしてもしかたがないので、せぬように。
「くくっ、かかったな!」
「何?」
真木は仰天した。剣が真っ二つに折れたからだ。
「何をした、トミー。何も見えなかったぞ」
「ふふふ。消える魔球とさっき言ったぞ。忘れたのか」
そして、ふふふ、という嗤い声がしばらくの間ずーっと続いた。忍び笑いなのだが、コックピットの構造上、マツザカーの操縦者の挙動は外部に完全に伝わってしまうのだった。それが嫌で、トミーはマツザカーが神田川を歩いている間、おとなしくしていたのだったが、今それをトミーはすっかり忘れていた。
「馬鹿め、それで勝った気になるものではない!」
真木は叫んだ。
「ふふふ、マツザカーは接近戦に持込まれぬ限り負けはせん」
うっかりトミーは呟いてしまった。もちろん大音量で響きわたる。
「そうか! 接近戦に持込めばよいのか」
スピーカの電源を切ってから、おもむろに呟いた真木は、次の瞬間、デカイオーをマツザカーにつっこませた。
がきーん。
デカイオーとマツザカーが激突した。金属同士がこすれあい、火花が飛ぶ。次の瞬間。
「力くらべだ。受けて立て!」
真木が絶叫した。スピーカはオフなのに、駅前中に真木の声が響きわたった。真木の声は実はやたらとでかかった。
「ぬ!」
トミーは蒼白になっていた。
「くそ……腕のパワーと強度は前回の反省で強化してあるのだが……」
ばきばき。
「胴体の強度は弱いのだ……」
めりめり。
デカイオーはマツザカーを真っ二つに引裂いてしまった。
「口惜しいが、今回は私の負けを認めてやる。また会おう、真木よ!」
頭部からコックピットを切り離し、脱出したトミーが叫んだ。
次の瞬間、マツザカーは断裂面から火花を散らし、派手に爆発を起した。
デカイオーは爆発から逃れるべく、飛びのいた。しかし、その先には、不幸なことに……。
第三新東京タワーがあった!!
めきめきめき……。トミーと真木の戦いなど知らぬげにそそり立っていた紅白だんだら模樣の第三新東京タワーは、あっさりと倒壊した。
「何でこうなるのだ!?」
機動隊長が叫んだ。
その隊長の言葉をきかないふりして、デカイオーは満足そうに頷いた。そして少し身を屈めると、せやっ!と叫んで宙に飛び上がった。
「……あの野郎、逃げやがったな」
隊長が涙を止めどなく流しながら、呟いた。
夕方――夕陽が地平線の彼方に落ちていくのが見えた。つまりここは田舎である。
田んぼの真ん中に建物がある。玄関のところに看板がある――真木国際漢文研究所。真木博士の秘密基地である。
「ただいま」
「おかえりなさい、真木博士」
疲れ果てたような真木を、極めつけの美少女が出迎えた。
彼女の名を秋本いづみという。肩までのストレートの髪はこげ茶色。大きな瞳が愛らしい。さてエピローグはここまで前回の原稿からコピーアンドペーストしたのだが、このあとの所はそうもいかないので直す。今回のいづみちゃんの服装の描写である。今日は、白のタンクトップに卵色のショートパンツ。十七歳の娘らしい、健康的な肢体が見て取れる。
中年親父の真木博士になんでこんなアシスタントがいるのかはやっぱり別の機会に語ろうと思うので、それを楽しみに、今後もこのどうしようもないだめだめ小説を読み続けていただきたい。閑話休題。(この閑話休題は何回目だ?)
いづみちゃんは真木にきいた。
「お夕飯は何になさいますか?」
「焼き魚」
「……すみません。お魚、ないんです。最近高くって」
「そうか。ところできみは、アキハバラが好きかね」
「何の事ですか?」
「……いや、いい」
真木は少し落込んだ。
二人はまた向い合って食事をした。
「どうしました? なんか落込んでいらっしゃるみたいですけど」
「……いや、なんでもない。ただちょっと自己嫌悪しているだけだ」
「そうなんですか。あ、このほうれん草のおひたし、どうぞ」
言われて小皿からつまむ真木。
「うむ、うまい」
「わあ、よかった」
……まあいいや。
そうこうするうち食事が終った。
箸を置くと、二人は手を合わせて一緒に言った。
「ごちそうさま」
そして、それぞれ自室に引っ込んだ。
自室で真木は呟いた。
「トミーめはいい。それよりいづみくんには、いつかアキハバラのことを知ってもらわんとな」
面積二十疊以上、天井までの高さ四十メートルという広大な自室で、すっくと立つデカイオーの下で、真木はラックの中のヴィデオテープを引っ掻き回し始めた。
「なぜだ。なぜキッズステーション版の録画テープが見つからないのだ! TBS再放送版と、どうやら本放送の素材を使ったらしいファミリー劇場版の録画テープはあるのに!」
真木博士の悲鳴が、部屋中に響き渡った。やけにリアルな内容の悲鳴だった。
頑健魔神ガルベースの開発を続けるトミーと、漢文に関する研究をまとめつつある真木のもとに、国際ロボットレースへの招待状が舞い込む。だが、二人にはそれを拒否できぬ事情があった。次回「奈落の底から今日は」。真木の飲むコーヒーの味は苦い。
戦え、真木博士! ゆけ、恐怖のオヤジロボ・鋼鉄面皮デカイオー!!