制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2011-08-19

L.D.ラーナー著・深瀬基寛・川田周雄・安田章一郎譯『英文学をどう読むか』

書誌

日本版のはじめに

先年わたしはC・D・ルーイスの英詩入門書を邦訳し、『詩を読む若き人々のために』と題して公けにしたが、幸いに一般読者の好評を博することができた。

あの本はもともと少年少女むきの本だったが、もすこし年長の日本の学生のための適切な英文学入門書をその後求めていた。ラーナー氏のこの本は偶然にもわたしの要望に完全に応えてくれたのである。。

原著の表題『外国の学生のための英文学入門』が語っているように、この本は英語国民ならぬ外人学生と著者自身との日々の教室内の接触から生まれた実地経験に基づいて書かれた本であって、原著の献辞にも明言されている通り、実際の著者は実はラーナー氏一人というよりも、その教えを受けたゴールド・コースト大学の学生諸君やその卒業生と氏との合作によって合成された最も具体的、経験的な共著といってもいいのである。

日本の学生を相手に同様の経験を積み、いまベルリンで英文学を講じているエンライト氏もその著書のなかでしばしば嘆じていることだが、日本における英文学研究の最大の通弊は元来が文芸であって、鑑賞され感動さるべきはずのものが、文学として、概念的知識として蓄積され、味識さるべきものがいちはやく論述され、研究され、かんじんの作品そのものの具体的な鑑賞がとかく素通りされていることである。

ところでラーナー氏のこの本では、読者に高校上級程度の英語の解釈力を予想しただけで、その程度の語学力から一挙に抽象的な文学理論へ飛躍するのでなくして、詩、小説、劇の各々の部門を通して一つ一つの作品の具体的鑑賞に至る道を見事に打開してくれるのである。つまり英から英文学への真の入門書である。……。

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