のち筑摩叢書版で再刊(合本・筑摩叢書35)。
……かつてイギリスの詩人ジョン・キイツは藝術家の見ようとするものを「美は眞、眞は美」といふ有名な一行で規定しようとしたが、こんにちではむしろ詩人の見るものは「ヴィジョン」といふ言葉で規定されるやうになつた。スペンダーの言葉でいへば、詩人の根本規定は「ヴィジョンを見る單獨者」である。藝術家の藝とはまさにこの單獨者の單獨のヴィジョンを他に比類なく表現せんがためにのみ存在する。他に類がないといふこのスペシャルネス(特別性)こそ藝術のみが具へた藝術の特性である。この「創造的要素」を拔きにして藝術は考へられない。