文藝春秋八月號に小林秀雄君の寄せた「疑惑」といふ一文を讀んで、『菊池寛氏の「西住戰車長傳」を僕は近頃愛讀してゐる。純粹な眞實ないい作品である。友人間に聞いても誰も讀んでゐる人がない。恐らくインテリゲンチャの大部分のものは、あれを讀んではゐないであらう‥‥』と云ふ一節に會した。僕は恐らく小林君の所謂インテリゲンチャの大部分の仲間には入つてゐないのだらう。何故なら、「西住傳」が東日に掲載されはじめてから今まで、一囘も缺かさずに熱讀してゐるからである。僕の家では、僕のまたいとこに當る今年八十八歳になる老婆と僕とがこの傳記の愛讀者で、時々、夕餉の後で、二人は異口同音に『何といふ偉い青年將校だらう。』『ほんとに偉い軍人さんだ』と互に感歎の言葉を交はすのである。暑中休暇前、僕は夕刻御茶の水驛から吉祥寺驛までの省線電車の中で、屡々「西住傳」を讀んでのだが、往々、讀んでゐるうちに涙が出て困つた。それも涙ぐむ程度を越えて、涙が頬を傳はつて下るのだから、なほ始末が惡かつた。僕のやうな南蠻の血を承けたむくつけき東夷が流涕するのは、斷じて雨になやむ海棠の風情とはいかない。高々夕立を浴びた南瓜のやうで、どうも見る人を感動させる姿ではない。そこで僕はいつも、鼻をかむ振りをしたり、汗を拭く眞似をしたりして誤魔化しながら讀みつゞけるのだつた。而して讀むに從つて、人間としての、軍人としての西住氏は勿論、一個の求道者、殉教者としての青年に根柢から撼かされ鞭たれて、涙をとどめ敢へなかつたのである。
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