公開
2004-10-30

国鉄の分割民営化について

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昭和62年4月1日、日本国有鉄道(国鉄)は、分割・民営化され、北海道旅客鉄道株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び九州旅客鉄道株式会社)、日本貨物鉄道株式会社になりました。

国鉄は、巨額の借金を抱へ、事実上経営破綻してゐました。分割・民営化は、そんな国鉄の経営を立て直すために行はれた、とされてゐます。従来の「親方日の丸」の甘えた考へ方を排し、利用者のニーズに合つたサーヴィスを提供できるやうにする、と云ふのが、分割・民営化を行ふ表向きの理由でした。

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国鉄の経営が破綻したのは、モータリゼーションの進展による鉄道利用の減少や、赤字ローカル線の建設が原因だ、とされました。

しかし、実際には、経営がはなはだ非効率であつた事、ストライキにより信頼が失墜してゐた事が、国鉄の経営破綻の重大な要因でした。

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国鉄時代の経営効率の悪さは、経営合理化に労働組合が反対したのが原因でした。国鉄の労働組合は、労働力を価値とみなすマルクス主義に基いて活動してゐました。そのため、技術の発達により、人力を必ずしも必要としなくなつたにもかかはらず、労働確保を叫んで列車や施設の近代化に反対しました。

ストライキを行つて、国鉄の経営を妨碍したのも、当然、労働組合です。昭和40年代、国鉄では労働組合によりストがしばしば行はれ、通勤客に嫌がられました。

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経営側と協調する労働組合として、鉄労と呼ばれる労働組合がありました。千葉等で国鉄のストが行はれた時、マスコミでは「一部の列車を除いて運休」と報じられたものですが、その「一部の列車」を動かしてゐたのが鉄労でした。

一方、国鉄当局に対して闘争を行つたのは、国労・動労と呼ばれる労働組合でした。これらは過激な共産主義的思想を抱いた組合員を含む労働組合です。規模も大きく、全国的な組織を持つてゐました。

国鉄の分割は、全国組織である労働組合の分割も惹起すものです。実際、結果として、国労・動労の社会的影響力は低下し、ストは激減、国鉄のサーヴィスは向上しました。

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労働組合側は、「国労つぶし」を目的に国鉄の分割・民営化をやつたとして、中曽根氏を非難してゐます。

当時の首相だった中曽根康弘氏が後年、「国労を崩壊させることを明確に意識して(国鉄改革を)やった」とテレビや雑誌のインタビューで発言していることが、何よりの証拠です。

しかしながら、国鉄の経営を悪化させ、サーヴィスを低下させたのは、反体制の労働組合である国労・動労でした。

既に、彼等の信ずるマルクス主義は破綻しました。労働価値説は崩潰しました。世間は「右傾」し、マルクス主義は人気を失ひました。結果、彼等は、マルクス主義のイデオロギーを押し立てた闘争を諦めざるを得ません。

JR移行時、国労・動労の組合員の中に、再雇用されなかつた人がゐました。旧労働組合は、「労働者の権利」を「守る」ためと称して闘争せざるを得なくなつてゐます。

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労働組合は左翼としての過激な主張を匿し、経営側は施策の左翼封じと云ふ目的を匿してゐます。一見、感じの良いスローガンが謳はれてゐるだけにしか見えません。その結果、国鉄分割民営化の意味が、かなり曖昧になつてゐます。

実際、国鉄が分割・民営化されて、それだけで鉄道として魅力を増したか、鉄道としてのサーヴィスを向上させられたか、と言ふと、さうでもありません。各旅客会社の境界線を跨いだ鉄道の利用は不便になりました。そのため、分割民営化を疑問視する向きもあるやうです。

しかし、全国組織である国労・動労の活動を抑へ込む目的があつた、と云ふ説明があれば、分割・民営化は「止むを得ない」ものであつた事が理解出來ると思ひます。

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国鉄分割とともに、労働組合も分割されました。労働組合の影響力は低下しました。社会状況も変化しました。マルクス主義の権威は失墜しました。

いまや、JRのサーヴィスは、かつての国鉄時代のそれをはるかに凌ぐ高水準のものとなりました。労働組合が、鉄道会社の経営を妨碍する活動方針をやめ、労使協調路線をとるやうになり、サーヴィスの向上や各種の合理化に協力するやうになつたためです。

その一方で、往時と同様の思想を抱いた組合員が、現在も生延びて、JRの内外で活動を続けてゐます。彼等は、経営側に協調的な労組に所属する社員を「裏切り者」ときめつけて、攻撃する事すらあります。

表面的には「もつともらしい」主張を、旧国労・旧動労の活動家は掲げてゐます。しかし、彼等はマルクス主義――と言ふよりも、主流ではない「革マル」ですが――を未だに信奉し、体制転覆の為に策動を続けてゐます。

既に彼等の意図ははつきりしないものとなり、闘争も自己目的化しつゝあるやうに見えます。しかしながら、「反体制」は相変らず人気があるやうで、ウェブでもかう云ふ運動家に同調するやうな発言が見られます。一介の「鉄道ファン」を装つて活動家を支援しようとする悪質なサイトすらあります。困つたものです。

参考

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