天皇論と言へば、イデオロギーに基いた否定論か、盲目的な崇拜か、のどちらかに限られる。實際の天皇がどのやうな存在であつたのか、或は、どのやうな人間だつたのか、と云ふ事は、多くの議論で全く顧みられない。しかし、人間である天皇は、抽象的な存在である筈もなく、事實として多數の言葉を殘してゐる。我々は、天皇が心情を吐露した數々の歌を讀む事が出來る。現實の天皇の姿を良く知る事で、我々は内容のある議論を行へる――私はさう信ずる。本書は、昭和天皇の歌を紹介しつゝ、昭和天皇がどのやうな天皇であつたのかを紹介する、優れた人物傳である。