公開
2003-03-21
最終改訂
2007-02-26

両大戦間の世界

林健太郎氏による歴史概説書。林氏の歴史概説には定評がある。

本書が扱ふのは、第一次世界大戰の末期から、ナチスがドイツで政權を掌握するまでのヨーロッパの歴史である。

感想

第二次大戰後の世界情勢は、第一次大戰後の世界情勢とそつくりです。

アメリカが國際機關を無視して獨自の戰略をとつてゐる事、自國の國益を最優先してフランスが國際戰略を立ててゐる事、前囘の大戰後に戰勝國から報復的な條件を呑まされた敗戰國で社會主義とナショナリズムの入交じつたファシズムが勢力を持つやうになつてゐる事、などなど。

現在の世界は、かなり危險な状況に陷つてゐると思ひます。

概要

第一次大戰で、それ以前の秩序が崩潰し、戰後の新體制が出現した。近代から現代への移行が始まつた、と言つても良い。

國際機關の設立、戰勝國の敗戰國に對する報復的な措置――これらは、第一次大戰後に一度行はれ、第二次大戰と云ふ悲劇を招きながら、第二次大戰後に繰返された事である。

第一次大戰とその戰後處理政策を反省し、それに基づいて第二次大戰後の世界は築き上げられてゐる、と言はれる。しかし、本當に反省等、出來てゐるのだらうか。本書で描かれた「両大戦間の世界」の出來事と、現代の世界の出來事とは、餘りにも類似點が多い。

國際機關

國際聯盟は、實際には、國際紛爭の調停に殆ど役立たなかつた。その理由は色々と述べられてきた。國際聯合は、國際聯盟の失敗を反省して、機構が作られてゐると言ふ。しかし、理念としての國際聯合と、國際聯合の實態とは、全然異るものである。

獨自の軍事力を持てず、アメリカが加盟しなかつた爲、國際聯盟は弱體であつた。國際聯合は、現在に至るまで、國連軍を保持してゐない。今(2003年春)、アメリカは國聯決議を待たずしてイラク攻撃を開始した。國際聯合は、國際聯盟と同樣、國際紛爭の調停機關としては不完全である。

ファシズム

ドイツは、第一次大戰の敗戰國であつたが、必ずしも國力を完全に失つた譯ではなかつた。にもかかはらず、ヴェルサイユ條約で屈辱的のみならず、無茶な條件を呑まされた。歴史の流れで、ドイツにも民主的な勢力が生れ、民主的なワイマール憲法が作られた。しかし、戰勝國の報復をドイツ人は忘れず、左翼とナショナリズムの結び附いたナチスを生んだ。

ファシズムは、實際には、右翼でも左翼でもない、思想的には極めて曖昧な代物である。今の日本に生れつつある「保守派」もまた、單なる右翼でもなく、かと言つて左翼でもない、曖昧な存在である。「反米」を叫ぶ西部邁は、かつて、反安保同盟の鬪士であつた。「保守派」の團體は、聯合國の報復的な「東京裁判」に反對し、愛國心を鼓舞してゐる。

「かうすれば大東亞戰爭に勝てた」と云ふ本まで出版される始末である。日本に「匕首傳説」は無いと言はれてきたが、昨今、それは怪しくなつて來たやうに思はれる。

共産主義

第一次大戰の最中にロシア革命が勃發し、ソヴィエト聯邦と云ふ實驗的な國家が生れた。ソ聯はその後、強力な獨裁體制を完成させ、第二次大戰後、半世紀も生存へた。

第二次大戰後であるが、アジアでは中華人民共和國が成立してゐる。ただし、歴史の流れには逆らへず、ソ聯崩潰前後から中國も民主的な要素を採入れ始めてはゐる。ソ聯と中國とでは、似た過程を辿つてゐるとは言へないし、今後も必ずしも同じやうな過程を辿るであらうとは言へない。

しかしながら、戰後に成立した共産政權が、平和な時期にいづれも獨裁に移行してゐる事實は注目するに値する。

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