初出
「闇黒日記」平成13年3月11日
セブンアンドワイみんなの書店「書肆言葉言葉言葉」
公開
2001-11-01
改訂
2018-02-22

岡田英弘『歴史とは何か』

客觀的な歴史なるものは存在せず、いかなる歴史も歴史家の主觀を通つて再構成された「フィクション」である――と云ふ事を鏤々述べた本。だからといつて、歴史を特定の史観に基いて濫りに構築し(でつち上げ)てしまふのでなく、出來る限り冷靜に現實を見据ゑ、公正な歴史を作る努力をすべきだ、と著者は主張してゐる。

最近は、自説に「客觀的な歴史」なるレッテルを張つて、變な事件をでつち上げたり、自分の氣に入らない人を「歴史修正主義者」と極めつけたりしてゐる人が多いのですが、困つたものです。

書誌データ

内容

本書は「歴史とは事實の認識過程である」と云ふ、「過程説」に基いた面白い歴史概説である。實は本書は「看板に佯りあり」で、「歴史とはなにか」ではなくて「或歴史は、いかなる理由で書かれたのか」を扱つてゐる。

歴史は科学ではなく、物語であり文学である、と云ふキャッチコピーが勘違ひを誘ふので「危險」。小林よしのりなんかの言ふやうな「フィクション」と同じではないので注意しなければ行けない。「歴史家が自分の認識を通して事實を再構成したものが歴史と云ふものだ」と云つた意味であり、歴史を讀む際の心構へを岡田氏は説いてゐる。歴史家の認識と云ふフィルタを通して再構成された歴史を讀む者は、危ふい羂にひつかからないやう、警戒してかからねばならぬ。

一方で、歴史を書く者は、飽くまでも、個人の視點を超えた普遍的な歴史を書かうとしなければならないのだ、と岡田氏は主張する。

だが、特定の思想に偏向した歴史は同じ思想を持つた人々に評價されるものであり、特定の思想に偏向しない普遍的な歴史──よい歴史──は多くの人から嫌はれる。それは困つた事だが、いつかはよい歴史も役に立つ時が來るだらう――さう岡田氏は本書の結語で述べてゐる。

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