初出
當サイトオリジナル記事
イーエスブックスみんなの書店「書肆言葉言葉言葉」より一部轉載
公開
2001-11-01
改訂
2018-02-21

アジア史概説

歴史は、國、地域、全世界、といつた異つたレヴェルで記述される。だが、大事なのは、國と國の間、地域と地域の間の結び附き方、である。世界は、地域や國ごとに、ばらばらに存在してゐるのではない。歴史の概説書は澤山あるが、地域間・國家間の有機的な關係をきちんと説明したものは案外少ない。本書は、アジアの地域内外に存在した相互の影響や關係を指摘し、統一的なアジア史を構築してゐる點で出色の概説書である。

書誌データ

概要

アジアの歴史は、日本史・東洋史、或は支那史・インド史・イスラム史といつた風に分斷されてゐる。本書は、アジアの各地域の歴史を述べつつ、地域間相互にあつた影響も考察して、有機的なアジア史を構築しようとする、極めて面白い試みである。

日本史と世界史の中間のレヴェルの視點を提供して呉れる歴史概説は餘りないので、本書はとても貴重なものである。

個々の事象を結び附ける「歴史の盲點」

「明は鎖國をしてをり、貿易をしたい國は朝貢をしなければならなかつた」と云ふ重大な事實が、日本史の授業ではなぜか教へられる事が無い。

これらの事柄の原因は全て、上記の事實で説明可能であるが、本書で私は初めて知つた。かう云ふ「歴史の盲點」のある事を、宮崎氏は本書で指摘し、きちんと解説して呉れる。

この「歴史の盲點」は、歴史的事件や事象の相互のかかはり合ひと云ふ部分に、良くあるものである。事象と事象の關聯性は、個々の事象を見てゐただけでは氣附かない。

大學受驗では屡々、幾つかの事件や事象を比較して考察せよ、と云ふ問題が出題される。單なる事實の諳記をしてゐるかどうかではなく、事實の背後に存在する歴史的原理や歴史上の思想或は法則を學生がきちんと認識出來るかどうかを、出題者は見たいのである。

本書は、さう云ふ「本質的な歴史の見方」を教へて呉れる譯である。大學受驗の爲の參考書にもなるし、さう云ふ功利的な目的を離れても視野を擴げる事が出來るであらう。歴史的な視野を擴げたい人には、本書の一讀をおすすめする。

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