初出一覧。卷末の記載に基く。
倫理は何よりも自分自身にかかはるものであつて、他人を非難攻撃するためにあるのではない。
多くの場合、道徳は自分だけのアリバイ證明と自己辯護、そしてただ他を非難するための手段として利用されるに過ぎないのである。そして最も多く他を斷罪するものが、最大の道徳家といふことになりかねないのである。
意見の相違は五十歩、百歩のことで、どちらが絶對に正しいなどと言へるものでもなく、多數も少數も直ちに全體とはならないのである。だから、そのまま一應は多數決をとることにしておけばよいわけなのだ。ところが現今の政治論では、むやみと絶對性が求められ、そのための欺瞞や虚僞によつて、われわれは救ひやうのない困難に追ひこまれたりするのである。