本書の「夜話」の第一話から第七話までは、戦後十年間、折にふれて、数種の雑誌に寄稿したフランス革命に関する随筆を集めたのである。
次の「前哨戦」と「熱月九日」はアルベール・サヴィーヌとフランスア・ブルナン合著 Le 9 Thermidor に拠り、最後のフランス革命略史は J. Perron と A. Lomont 合著 Les grandes questions de l'Histoire de France (フランス史の諸大問題)に拠った。前者は学術的なフランス革命研究ではないが革命当時やその直後の様々な記録、個人の思出などが各ページに引用されて、読者を啓発するところがすこぶる多いのである。私はこの著書から「小ぜりあい(エスカルムーシュ)」(あるいは前哨戦)と「熱月九日(ル・ヌフ・テルミドール)」の二章を選び、後者からは「フランス革命略史」を選んだ。この著書は中学初級用の教科書にすぎぬが、すこぶる公正な自由主義が頼もしく思われたので、標準的な拠りどころと信じたからである。
この二種の著書からえらんだ三章を私は翻訳したのだが、逐辞訳を避けて、必要と思われぬ箇所は省いたり、多少、他の文献から付加したりして読者の理解を平らかにするにつとめた。
フランス革命について、最初に私の強い興味をひいたのは、アナトール・フランスの小説『神々は渇く』であった。次いで、ミシュレーの『フランス革命史』とカーライルの『フランス革命』であった。しかしてテーヌ、ミニェ、ジョーレス、サニャック、カクゾット、フェレロなどに及んだが汗牛充棟の参考文献には、ただただ驚くほかはない。史学を専攻せぬ私には、そもそも如何なる文献に拠るべきかも未だ判然と定まっているわけではない。それ故本書は『フランス革命やぶにらみ』と題した方が内容にふさわしかったかも知れない。とにかく漫読老書生の一家言として、ねむ気ざましにでも読んで頂ければ望外の仕合せである。