春遠からじ櫻花さん
2009年3月10日のお話
- 櫻花
- ここ數年、春が來る度に思ふのよね……。
- 蜜子
- ん?
- 櫻花
- 何處までも廣がる草原、ぽかぽかとあたたかな日の光の下、大の字に寢轉がつて……。
- 蜜子
- いいねえ。
- 櫻花
- 心ゆくまで惰眠を貪りたいの。
- 蜜子
- 惰眠かよ。
- 櫻花
- 空高く雲雀が鳴いてゐる……。
- 蜜子
- ん。
- 櫻花
- 傍にはバスケットに入つたサンドウィッチ。
- 蜜子
- ふむ。
- 櫻花
- そして二、三册の本。
- 蜜子
- まて。
- 櫻花
- 大丈夫、置いてあるだけ、置いてあるだけだから。あれば安心でせう。
- 蜜子
- 安心するのはあんただけだと思ふ。
- 櫻花
- 斯うして、わたしは暫し、活字を忘れるのです。
- 蜜子
- 忘れてねえだろ。
- 櫻花
- 陽が翳つて來たら、荷物を纏めて。
- 蜜子
- 纏めて?
- 櫻花
- 再び町の古本屋さんへ。
- 蜜子
- いやいやいやいや。
- 櫻花
- おひさまのエネルギーを貰へれば、リフレッシュして、また古本集めを始められると思ふの。うん。いいと思ふんだけど。ねえ。
- 蜜子
- ねえぢやねえよ。
- 櫻花
- 毎年、計劃だけは立ててみるんだけどねえ。
- 蜜子
- と言ふか、あんた――その計劃、實行しなくても、古本集めのペース落ちて無いぢやん。また一部屋埋まりかけてるし。
- 櫻花
- 取敢ず、棚組立てるんで手傳つてね。
- 蜜子
- バカヤロ。
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