バーチャルネット古本オタク櫻花23.4歳
2002年9月10日のお話
櫻花さんと蜜子さんをつけ狙う黒櫻花さんと黒蜜子さん登場。
- 黒櫻花さん
- 夏休みが終り、我々二人の資金源も尽きてしまいました。何か方策はないですか、黒蜜子さん。
- 黒蜜子さん
- 我々には豊富な古本の山があります。この中から、ダブっているもの、我々にとってどうでも良いものを古本屋に売り払うのはどうでしょうか、黒櫻花さん。
- 黒櫻花さん
- 良い考えですね、黒蜜子さん。では、早速売りに行きましょう。用意はできています。
- 黒蜜子さん
- できているんですか。
- 黒櫻花さん
- もちろんです。あなたに相談したのは、単に義理を果しただけです。
- 黒蜜子さん
- ……微妙にむかつくな。
- 黒櫻花さん
- そりゃ、私は櫻花さんの「闇黒面」ですから、一々嫌みったらしいのは当たり前です。
- 黒蜜子さん
- しかし、我々は友達なんだからもっと……
- 黒櫻花さん
- その辺りの議論をしていては話が進みませんから、さっさと出かけましょう。言いたい事があったら、夕飯の後にでも聞いてあげますから。
- 黒蜜子さん
- ……本当に聞いてくれる?
- 黒櫻花さん
- 寝ちゃうかも知れないけど。
- 黒蜜子さん
- ……。
段ボール箱を抱えた黒づくめの女、二人。
ちなみに、二人とも眼鏡っ娘である。
- 黒蜜子さん
- ここは古本マニアのメッカ・神保町ですね。
- 黒櫻花さん
- そういう紋切型を私は好みません。私と友達を続けたいのなら、今の台詞は撤回なさい。
- 黒蜜子さん
- すみません。撤回します。(しょぼん)
- 黒櫻花さん
- よろしい。これからは黒蜜子さん、あなたは神保町を「古本ヲタのオーラ渦巻く闇黒のオープンカーニヴァル・恐怖のブック歌舞伎町」とお呼びなさい。
- 黒蜜子さん
- やだ。
- 黒櫻花さん
- 反論は不許可です。無駄口を叩いている間に、SFとミステリの古本専門店・東京TB社に到着しました。我々は、某田舎の古書店に欺されて押附けられた30冊のハヤカワ銀背を持ってきています。ここではこの銀背の山を売ってみます。
- 黒蜜子さん
- SFですか。銀背はマニアに受けそうですね。期待できますね。
- 黒櫻花さん
- いいとこ1700円でしょう。
東京TB社に本を持ち込む二人。でも、すぐに出てくる。
- 黒蜜子さん
- なによなによ。「駄目だねこりゃ」ってなに……。
- 黒櫻花さん
- 泣く事ないでしょう。私の予想通りの買い値を提示されただけなのですから。
- 黒蜜子さん
- くやしい。こんな温情を知らない店の親爺になんて、絶対売りたくない。
- 黒櫻花さん
- それが神保町の古本屋らしいとこなんですが。
- 黒蜜子さん
- 早稲田の古本屋に売っぱらいましょう。早稲田の古本屋の親爺は、義理と人情に厚いから、そこにつけ込めば、もっと良い値がつくと思うし。
- 黒櫻花さん
- 非道い奴ですね、黒蜜子さんって。
- 黒蜜子さん
- だって、私は黒蜜子さんですから。
- 黒櫻花さん
- でも、早稲田でも精々2000円にしかなりませんよ、どうせ。
で、予言通りになったりして。
- 黒蜜子さん
- SFは駄目ですね。失望しました。もう二度とSFなんて、手に取りません。
- 黒櫻花さん
- いや、ただ「ありがち」の本だったから、値がつかなかっただけだし。
- 黒蜜子さん
- しかたがない。今度は少女漫画と文庫本をBOOK OFFに売り払いましょう。これだけ(段ボール箱二箱)あれば……。
- 黒櫻花さん
- ま、精々200円くらいかな。
やっぱり、予言通りになったりして。
- 黒櫻花さん
- 我々の資金源確保計画捷一號作戰は失敗に終った。
- 黒蜜子さん
- そんな名前、いつ決ったんですか。
- 黒櫻花さん
- (無視して)だが我々の敗北は、最初からわかり切っていた事だ。売り払う本を選びながら、これは駄目だと、私ははっきり認識していました。
- 黒蜜子さん
- じゃ、なんでわざわざこの残暑厳しい折、古本屋に重い箱を運搬する手間をかけたんだ。無駄骨じゃないか。
- 黒櫻花さん
- そう、これは無駄骨であったと言って良かろう。だが、……。
- 黒蜜子さん
- だが?
- 黒櫻花さん
- 価値を知らない駄目店から安く本を買い、転売して利潤を得る――この邪道としか言いようのない本の買い方をする愉しみ。これこそ、我々の敵、櫻花と蜜子の純粋な古本趣味に対する、最良の嫌がらせと言えるものではないか。我々は、彼らが店頭で、「また高くてあの本、買えない」と泣き顔を見せるまで、古本の値段をつりあげるため、努力し続けるのだ。今回の無駄骨は、一見無駄骨のようであって、実はそうではない。勝利の第一歩なのだ。
- 黒蜜子さん
- ……そうだったのですか。
- 黒櫻花さん
- いや、そうでも思っておかないと、なんかわびしいし。
- 黒蜜子さん
- だいたい、今回の我々の行動で、古書価は全然上がってないですし。
- 蜜子さん
- 一夏で、また本が増えたわね。
- 櫻花さん
- うん。嬉しい。
- 蜜子さん
- でも、これじゃ床が抜けるわよ。少しは減らしたら?
- 櫻花さん
- 嫌です。古本は手放せません。でも、わたしはわたしなりに努力しています。
- 蜜子さん
- 努力?
- 櫻花さん
- そうです。先日、絨毯を剥がしました。少しは床への負荷が減ったのではないかと思います。
- 蜜子さん
- いや。そういうのは努力とは……。
- 櫻花さん
- 箪笥も手放しました。
- 蜜子さん
- まあ、いいけどさ。
- 櫻花さん
- 空いたスペースに、本棚を入れようと思いました。
- 蜜子さん
- えーと。……組立てを手伝えと。そういう事ですか。
- 櫻花さん
- さすが蜜子さんですね。おっしゃる通りです。さっさとそこの箱、開けて。
- 蜜子さん
- どうしてあたしは、こんな娘と友達やっているんでしょうか。
- 櫻花さん
- 考える暇があったら、手を動かしなさい。
- 蜜子さん
- なぐるぞ。
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