バーチャルネット古本オタク櫻花18歳

2002年1月30日のお話

櫻花さん
昨日の話はあまり面白くありませんでした。
蜜子さん
古本とは結局、関係ないまま、貧乏落ちに走ってしまいましたからね。
櫻花さん
今日は古本の話をします。
蜜子さん
たまにはいいですね。
櫻花さん
あなたは古本屋で本を見る時、どこを最初に見ますか?
蜜子さん
ちゃんと、本の話ですね。あたしは目次を見ます。
櫻花さん
甘い。
蜜子さん
?
櫻花さん
甘いですな。どこの世界に、本の中を最初に見る馬鹿がいますか。
蜜子さん
違うんですか?
櫻花さん
決ってるじゃないですか。どんな人も、本の表紙を最初に見るんです。
蜜子さん
……まあ、そうでしょうけど。
櫻花さん
本の表紙を見るのは、古本道の基本です。
蜜子さん
古本道。
櫻花さん
装釘や、デザインを見るのではないですよ。そんな浅薄なレヴェルの話ではないのです。
蜜子さん
装釘は、デザインは、浅薄だと?
櫻花さん
審美的な観点から、本の姿を見るのは間違いです。真の本好きは、埃まみれでぼろぼろになった敗戦直後の非道い出版物にも、特殊な雰囲気を見てとります。
蜜子さん
汚いだけじゃないの?
櫻花さん
以前申しましたが、本に「汚れ」は存在しません。本についた染みも埃も、傷もまた、その本の経歴を物語るものです。一般に言われる「汚れ」は、本の一部にほかなりません。本好きは、本の痛みにすら、その本の過去の歴史を見て、感慨を催します。
蜜子さん
汚いだけじゃないかと。
櫻花さん
店頭のワゴン。100円均一のジャンクコーナ。堆く積まれた屑のような本の山。その中からわたしにサインを送る、ほとんど崩壊した雑誌のバックナンバー。しかし、本のサインを、あるいは、最期のメッセージを、本好きは見逃せません。
蜜子さん
安いから買っちゃうだけじゃないんですか?
櫻花さん
崩れかけた植物性繊維の塊──しかし、そこにはまだ、書物の魂が生きているのです。
蜜子さん
でも100円。
櫻花さん
死に瀕した本たちを引きとって、自宅の書棚に並べてやる──そうしてわがやにやってきた本のorphanたち。
蜜子さん
部屋が妙にほこりっぽいと思ったら、またジャンクコーナを漁ってきてたんですね。それにしても、こんな汚い本、いつ読むんですか?
櫻花さん
読みませんけど?
蜜子さん
またですか。
櫻花さん
さわったら崩れちゃうんですよ。読めるわけがないでしょうが。
蜜子さん
読まない本ばっかり買ってきて。本棚、いっぱいじゃない。いつか、床がぬけるわよ!
櫻花さん
古本道を極めた者の宿命です。

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