制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
初出
「闇黒日記」平成二十年九月二十二日
公開
2008-12-01

宮崎市定『東洋の歴史 11 中国のめざめ』

『東洋の歴史 11中国のめざめ』
人物往来社

『東洋の歴史』は人物往来社が出した歴史概説のシリーズ。十一卷を宮崎氏が執筆。

月報に宮崎氏が寄稿した文章「概説と同時代史」が滅法面白い。宮崎氏の歴史學に文句を言ふ人は決つて氏の學問の「概説」的なるところに文句を附ける。ところが、氏にしてみれば、「概説」にしろ何にしろ文章ならば面白く讀ませねばならないし、面白く讀ませる爲には筆者の關心・問題意識と主張が必要となる――さう云ふ訣で氏は單なる事實の羅列・事實の提示に留まらず、價値觀に基いた事實の再構成を目指す。そこが「主觀的」で偏つてゐる、と云ふ批判を受ける理由になるのだらうが、けれども歴史と云ふのは人間の目と腦を通して行はれた事實の再構成にほかならない。

宮崎氏の場合、價値觀に基いた事實の選別・選擇と再構成は意圖的に行はれてゐるし、根柢にある人間の價値觀の自覺がある。「純客觀的」な歴史研究と云ふものが現在の研究者の間では大人氣だが、しかし「自分は客觀的である」と云ふ思ひ込みには落し穴がある。

概説を書くということは、どうしてどうして、そんなにらくなことではないのである。――宮崎氏は良い文章を書かうとした。その點、評價されていい。

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