初出
「闇黒日記」平成13年7月16日・17日
公開
2001-08-04

真柴ひろみ・その3

一番最初に讀んだ少女漫畫が真柴ひろみの『Girl』。以來、真柴ひろみを超える漫畫家を探し續けたのだが、今に至るまで、少女漫畫或は全ての漫畫家の中からさう云ふ漫畫家は見つからなかつた。

真柴ひろみは、私が少女漫畫を讀んだ始めであり、終りである。


最後に野嵜師匠の反応。 要約すると「少女畫と言へば即ち真柴ひろみであり,真柴ひろみを知らずして少女漫畫を語るは運慶,快慶を知らずして佛像を語るが如き愚行である。故に真柴ひろみを草の根を分けてでも探し出して買ふべし」という事だろう。 野嵜師匠をも虜にした真柴ひろみ恐るべし。 俺もいつかは通る道なのだろうか(遠い目)

真柴ひろみを知らなくとも少女漫畫を語る事は出來ると思ふ。逆に、真柴ひろみ一人によつて、全ての少女漫畫はとどめをさされてしまふ、と私は言ひたいのである。

1

「硝子(クリスタル)白書」「てぃーんず」「瞳いっぱいの涙」が真柴ひろみの三大傑作。いづれも典型的な作品であるのだが、素材の組合せ方とストーリー構成は極限に達してゐる。少女漫畫に、ここまで形式を突詰めた作品は存在しない。

凡庸な作家なら一つのアイデアで一つのストーリーを作つてしまふところだが、真柴は複數のアイデアを絡み合せて一つのストーリーを作る。短篇はシンプルな話が多いが、長篇を真柴は複雜極まるストーリーに仕立て上げる。特に「瞳いっぱいの涙」は、少女漫畫史上最高の密度を誇ると言つて良い。しかし、複數のアイデアが絡み合つてゐるのに、それらが渾然一體と化した結果、ストーリーは驚くほど明快である。

「人氣があれば延長、人氣が無ければ打切り」と云ふ日本の漫畫界で、恐らくは連載開始前にストーリー構成を確定し、最初から豫定した囘數で起承轉結、首尾一貫した物語を完璧に描き切る、と云ふ離れ技を真柴ひろみは實現してゐる。テーマに倚り掛かつた駄目な作品も幾つかあるが、話の運びが巧みな良い作品が真柴には極めて多い。

2

真柴ひろみのストーリーテラーとしての才能は、初期の作品の「素直になれなくて」一篇を讀めばわかる。恐ろしい數の伏線が張られてゐるし、ストーリーは「どんでん返し」の連續だし、それでゐて詰込み過ぎの印象はない。

テーマやプロット或は繪は大したものではないけれども、真柴の話の組立て方は天才的である。古本屋などで探して「素直になれなくて」を是非一讀して貰ひたい。この一篇で、真柴ひろみの全てがわかる。

もつとも、「素直になれなくて」は、真柴ひろみの缺點とも言ふべき部分がはつきりあらはれてゐるのであつて、それゆゑ私にとつて論ずるに値する面白い作品である譯なのだが。

参考資料

inserted by FC2 system