公開
1998-11-19

「美少女戦士セーラームーン」について

1

テレビ朝日系で放映されたTVアニメーション『美少女戦士セーラームーン』は、漫画版と同時進行だった。私は1年目しかTVアニメーションを見なかったので、その間に気づいたことを書く。といふより、この作品が1年目の「ダークキングダム」編のみで完結するやうにできてゐたことを述べたいだけである。

前半は好調にストーリーが進み、スタッフはパロディ精神旺盛で、しばしば楽しい話を提供してくれた。原作で没になったストーリーをTV版で採用したこともある。この時期漫画版は、TV版のあらすじのやうな雰囲気があった。

ところが後半は、TV版は急に物語が低調になったといふ印象がある。終はりよければすべてよしといはれるだけに、漫画版の方がTVよりよくできてゐたやうな印象であつた。明らかに漫画版は前半が書込み不足だったが、後半は半年かけてクライマックスをじつくり描きこんだ。一方のTV版は後半、漫画の展開に合はせたせゐか、クライマックスの間に余計な話が入り、冗長なものとなったのである。

2

主人公の月野うさぎ(いかにも漫画的な名前で手抜きだと思った)が、仲間とともに月のプリンセスを探し求めるといふストーリーだった。

セーラーヴィーナスが登場し、彼女が主人公たちの探し求めるプリンセスであるやうな雰囲気を漂はせる。さう思つたらすぐにうさぎが当のプリンセス本人だったことが分ってしまふ。かと思ふ間もなく、タキシード仮面がさらはれてしまふ。

漫画版ではその後、主人公らセーラー戦士たちは月へ赴く。そしてうさぎ=セーラームーンは何もかも思ひ出し、クインメタリア側に翻心したタキシード仮面にショックを受けた後、さっさと敵地に乗り込んでいく。一方のTVシリーズはここで話をえんえんひっぱる。まあ、ダークキングダム四天王がきつちり全員いいところを見せて死んでいくことができたといふとりえはあつたが、弛れたことは否めない。

3

問題のラスト──敵地に乗り込んでから両者で展開が正反対になったが、ここで明らかに物語の出来のよしあしがはつきり表れたやうに思はれる。漫画では主人公が自殺を選ぶ。TVシリーズでは主人公以外のセーラー戦士全員が「死ぬ」。テレビでこのエピソードが放映されるとさっそく新聞には非難の投書が載った。当り前の話である。私も見てゐて安易な展開だと思った。

登場人物が死ぬならば、それまでのストーリーの流れから死ぬのでなければならない。いきなり、この人は死んでしまひました、といふのはアンフェアなのだ。TV版"無印"『セーラームーン』の最終回では、敵のクインメタリアが倒されたあと復活したセーラー戦士たちがまたもや記憶を失って日常の生活に戻り、それを見ながら喋る猫のルナとアルテミスに「奇跡だ」「奇跡だ」といふ台詞を繰り返させたのは、投げやりな作りだった。第一部のクライマックスに関しては、漫画版の描き方に軍配が挙がる。うさぎ=セーラームーン=プリンセス・セレニティが絶望のあまり剣で自らを刺すが、死に損なふのは衛=タキシード仮面=エンディミオンの時計に当ったため、といふ風に伏線が生きている。

4

私は『セーラームーン』のストーリーの構成に疑問を持ってゐる。漫画版にしてもTVシリーズにしても、重大な欠陥があると思ふ。繰返すが、月野うさぎがプリンセスとして目覚めるのが早すぎた、といふ点である。「セーラーヴィーナス=愛野美奈子がダミーとなって敵の目を欺く」といふ予定が狂った、と漫画版では書いてゐるが、ストーリー上のバランスからいっても「予定通り」に話をすすめるべきであったと思ふ。展開が急激すぎたし、敵地に乗り込んだ時点にうさぎの覚醒を持ってくれば低調だったクライマックスが盛り上がったばかりでなく、第二部への移行がより容易だったのではないか。

第一部のクライマックスが第二部につながる必然性はなかった。漫画版は敵を倒して帰って来たところに「ちびうさ」(武内直子らしいネーミングではある)が降ってくるが、余韻とかさういふ問題ではなく、あのクライマックスで話が終はらなかった、といふ点で私は不満が残ったのである。TVシリーズは第一部終了後、漫画版にないオリジナルミニシリーズがはじまるが、話を変質させて引き伸ばすのだから、私は馴染めなかった。TV版も話の一貫性がないといふ点では漫画版と同様である。下手に足掻かなかっただけ漫画版の方が好ましいが、漫画は紙数が足りなかっただけのことである。

『セーラームーン』では、TVと漫画の同時進行といふスタイルが、前半ではうまくいったが後半うまくいかなかった。といふより、ストーリーの先が見えてゐないままだつたので、TVと漫画といふ媒体に適した形でバランスのよい構成を行ふことができなかったのではないか。原作のストーリーの展開にミスがあった(早すぎるうさぎの覚醒)が、それをTVシリーズがカヴァできず、傷口を広げた──さういふ印象になったのが惜しまれる。

5

以上、長々と書いてきて最後に言ふのもなんだが、漫画版は月刊誌に連載されたのだといふことを失念してゐた。私はコミックになってからまとめて読んだので上のやうな感想を抱いたのだが、リアルタイムで雑誌を読んでゐた読者はどのやうな印象を得たのだらうか。

inserted by FC2 system