公開
1999年
再公開
2021-01-05

中原めいこ


当然のことながら、「ダーティペア」の主題歌『ロ・ロ・ロシアンルーレット』から中原さんの歌を聴きはじめた口である。刹那的であり、現代的な少女の悪い面を露骨に表現したやうな歌だが、私はこの曲の八方破れな点にむしろ中原さんの暗い精神を見た。

『ニューミュージック愛をよろしく』(昭和61年4月15日第1刷発行・富澤一誠著・講談社・講談社文庫)所収のインタビューは興味深い。中原さんの南国風の明るい曲の底にある、しつとりと濡れたやうな――といふよりはむしろ悲壮感のただよふやうな――雰囲気には、彼女の人生における挫折が背景としてある。単純なやうでゐて、むしろ中原さん自身が感じられるといふ点で、その歌は魅力的なのだ。

最近の馬鹿ミュージシャンが考へなしに歌ふ明るく楽しい歌に私は関心を持たない。他者を鼓舞するだけで、他者を拒絶するところがあるからだ。また小室哲哉プロデュース作のやうな「お経ソング」は大嫌ひだ。歌詞とサウンドは不可分であり一体であるべきだと考へる。中原さんの歌には、他人への何か切ない訴へかけと、自然に流れ出るやうなインストゥルメンタルとの一体感がある――要するに「歌」になつてゐるのである。

「ニューベストナウ」の中原さんのベストアルバムは、一曲も駄作が無いといふ意味で、最良のCDの一枚であらう。最近中原さんは音楽活動の第一線から遠ざかつてゐるが、復帰を切望する――とはいへ、後期のアルバムは初期のものに比べて良くないのだが。

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