初出
「闇黒日記」2001-11-28
公開
2001-10-01
最終改訂
2008-07-12

ノワール


反戰思想に狂つたアルテナが、戰爭をはじめとする人類の「惡」を根絶する爲、人を殺し捲る「惡魔」であるノワールを育てようとしたが、そのノワールたるべき霧香を平和主義の國日本で成長させてしまつて大失敗、と云ふストーリーだつたやうな氣がしてならない。

「愛で人が殺せるならば、憎しみで人を救へるのではないか」なるパラドックスに衝き動かされたアルテナの悲劇と見られなくもない作品だが、さう云ふ觀點から「ノワール」を捉へるのは、劇中でアルテナが全然動いてゐないので無理がある。そもそも、このパラドックスを、制作スタッフは本氣にしてゐない。全篇を見ても、このパラドックスの印象は極めて薄い。

飽くまで「ノワール」と云ふ作品は、ミレイユ・ブーケと夕叢霧香を主人公にした日本人的な人情噺なのであり、その世界は本質的に浪花節の世界である。その意味では、良く出來てはゐるが、それだけのエンタテインメント作品でしかない。アルテナも、哀れなクロエも、「ノワール」と云ふ作品では所詮おまけの存在なのであり、その死も、單にストーリーの都合によるものに過ぎない。

「ノワール」は、映像表現の規制をしても、思想の規制までは出來ない、と云ふ事を世に知らしめるアニメとしては、確かに完成度の高い作品ではあつた。一方で、「ノワール」は、「エヴァ」や「ウテナ」のやうな、思想の皮を被つたエンタテインメントである。「エンタテインメントたるべし」と云ふアニメのテーゼの制約からは、「ノワール」も逃れられなかつた。その點が個人的に殘念である。


なほ、本作「ノワール」は月村了衞氏が原案のアニメーション。その後、真下監督の制作してゐる作品に影響を及ぼしてゐる。と言ふか、月村氏拔きのノワールを真下氏えんえんやつてゐるのだが、ノワールを超えた作品が今のところ一つもないやうな氣がする。

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