ポール・ヴェルレーヌ

略歴


ポオル・ヴェルレエヌの一生は、酒と女と男色と、神と祈りと叛逆と、悖徳と悔恨とに獻げられて、全くデカダンと稱せらるに相應しい詩人である。生前二十卷の詩集と死後數巻に集められた遺作とを合せて、創作した詩は約五百四十篇、この中佳什は辛うじて四五十篇に過ぎないが、之らの佳作はフランスの詩歌に爽やかな黎明の大氣を吹き込んでゐる。晩年の敗殘放浪の詩人を、家に招じて款待した閨秀作家ラシルドRachildeは言ふ、『ヴェルレエヌですか? 窓を開けました!』

著作

叡智

ランボーへの拳銃發砲事件で入獄したヴェルレーヌが、獄中で書きはじめたもの。カトリックに改宗したヴェルレーヌの宗教詩。詩の中で表現されてゐるイメージが極めて明確である事を、河上徹太郎が指摘してゐる。

『叡智』穗高書房版
河上徹太郎譯。成熟した詩人による詩作を、河上が若い時に飜譯したもの。原詩には宗教的情熱が籠められてゐると推測するが、飜譯には河上の熱意と思ひ入れが反映されてゐるやうに思はれる。

詩集(譯者による選譯)

『ヴェルレエヌ詩集』新潮社版
堀口大學譯。
『ヴェルレエヌ詩集』創藝社近代文庫版
川路柳紅譯。川路譯は戰前にもあるが、本書は戰後の改譯。本國の選集から改めて抄譯したもの。川路は詩人・美術評論家。本書の譯文は、素直な文章で、讀み易い。
『ヴェルレーヌ詩集』明星社版
川路明譯。奧附缺につき刊行年版數等不明。戰後の刊本らしいが、本文の表記に混亂がある。
『世界名詩選 ヴェルレーヌ詩集』金園社版
黒崎鉄夫譯。昭和四十二年六月一日発行。本文正字正かな。版元の金園社は、實用書で有名な出版社だが、そこからこんな本が出てゐるのには驚かされる。黒崎氏の解説が、ヴェルレーヌの評價及びその影響について委曲を盡して、極めて便利である。
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