制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2010-01-09

『風俗壞乱の限界 ボヷリイ夫人の場合』

書誌

フローベール「ボヴァリー夫人」の裁判に關する記録。「ボヴァリー夫人」についての裁判は、D.H.ロレンス「チャタレイ夫人の戀人」についての裁判とともに、「好色文學と猥褻」の問題を考へる際には必ず參考にされるべきである。但し、何れもキリスト教社會に於る反キリスト的な文學の猥褻性が問題にされてゐるのであり、日本に於る幾つかの猥褻裁判とは性質を異とする。

「ボヴァリー裁判」も「チャタレイ裁判」も、「言論の自由」と云ふ事はまるで問題にされてをらず、小説の道徳的・思想的目的と表現との必然的聯關が認定されてゐるのだと云ふ事には、注意を要する。

譯編者「序」より

レアリズム文學の頂點を示す名作とされた「ボヴァリー夫人」はフロウベール五ヶ年に亘る彫心鏤骨の末に成り、當時の有力誌「パリー評論」誌上に一八五六年十月一日號より十二月十五日號にかけ六回に分けて連載された。

何しろ「アンナ・カレーニナ」と双璧をなす姦通小説であり、その大膽な情痴描寫は、發表當時から、ごうごうたる賛否の世論を捲き起したが、パリー輕罪裁判所でも捨ておけず、「パリー評論」の理事および印刷人と、作者ギユスターブ・フロウベールの三名を「公衆道徳および宗教道徳に對する冒涜の罪」として告發した。

佛文學史上に有名なこの事件は「ボヴァリー夫人」および當時の新進作家フロウベールを、さらに有名ならしめた事は云うまでもない。

公判はデュバルル裁判長の下で、一八五七年一月三十日および二月七日の二回に亘りパリー輕裁判所第六號室で行われた。

本書はその公判中、フロウベールに關する部分のみを集録したるものである。

……。

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