制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2005-06-21

『我等の劇場』「序」(菊池寛)

岸田國士君は、新進劇作家中その技倆と風格とに於て第一に推されてゐる人だ。だが、岸田君は單なる劇作家ではない。その戲曲及び演劇に関する學識に於ても、當代一流の人である。いな岸田君に於て、我々は初めて演劇學者らしい演劇學者を得たと云つてもいゝ位である。しかも、北歐風の戲曲及び戲曲學のみ全盛であつた日本に、新しいフランス風の戲曲及び戲曲學を傳へたことに依つて、岸田君のもたらした新聲は、日本の劇文壇にもつと高く鳴りひゞくべきものであらう。日本の劇文壇は、岸田君の『我等の劇場』から學ぶべき多くのものを發見するであらう。そんな意味で、此本も序や跋などを要しない位、重要な良書である。ただ書肆の都合に依つて敢て序文をかくのである。

inserted by FC2 system