制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2005-06-21

岸田國士『日本人とは?』

『日本人とは?』
昭和二十六年三月五日第一刷發行
目黒書店
表紙

概要

雜誌「玄想」創刊號から10囘に亙り「宛名のない手紙」の題で連載され(昭和二十二年:1947年)、1948年に養徳社から單行本として刊行された論集の再刊。有名な「日本人畸形説」を收める。

以下、「まへがき」より。

この機會に、私の考へや態度を樂天的なりとする一部の批評に答へたい。

樂天的とは、一種の甘い理想主義を云ふのであらう。別の言ひ方をすれば、現實の正しい認識なくして徒らに人間社會の改良を夢み、轉落の過程を無視して上昇の可能性を盲信するものとなすのである。

水掛け論はよさう。私は一方的に私の立場を述べておくことにする。

私はいはゆる現實主義者でもないが、單なる理想主義者でもない。といふ意味は、私は現實をあるがまゝに享けいれ、理想はその本來のかたちに於てのみこれを信じるものである。現實は非情であり、理想には目もくれぬ。しかし、そのために、理想が無力だとは思はない。理想の追究と理想主義の抵抗は、それが地についた實踐であらうと、觀念としての思想であらうと、たとへそれが悲劇に終ることはあつても、なほかつそれはひとつの行動としてもはや現實の中に含まれるといふ意味で、現實のすがたにより好ましいひとつの變貌をもたらすものである。かゝる現實の歴史に、なにものかをつけ加へる勞を私は惜しみたくないのである。

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