……我々の祖國の難局は今が絶頂にあるのではない、日支事變がいかに片付かうとも、平和克復後の日支間に平坦な路のみが通ずるとは思はれない。歐洲大戰の始末はどうあらうとも、世界が擴張された軍備を提げて、極東に集中することだけは、疑ふ餘地のない事實である。事變がいついかに終了しようとも、非常戰時の國内状態から平時の状態に復舊する過渡期には、色々の難問が輻湊することは、之を豫想するに難しくはない。今よりも難局の更に累増する將來に、我々國民は精神的準備を整へてゐるであらうか。
……人は或は云ふかも知れない、今日の學生に期待するならば、それが祖國に役立つには、遠い將來を俟たねばならないと。確にさうである、しかし精神的再建は一朝にして成るものではない。早急に效果を期待するものは、精神的弛緩の何ものであるか、その治療がいかに困難であるかを知らざるものである。……。