公開
2010-11-29

ヨゼフ・ロゲンドルフ『異文化のはざまで』

書誌
昭和五十八年一月二十日 第一刷
文藝春秋
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「諸君!」に連載された自伝。別宮貞徳が訳文を作成している。

当節は日本人論があまりにも多すぎるとよくいわれる。私の考えでは、いちばん日本人論を必要とした昭和の初めに、それは充分とはいえなかった。あるいは私の目につかなかっただけかもしれない。ラフカディオ・ハーンや岡倉天心、それに『国体の本義』の著者のように教条的なものには、どうしても納得がいかなかった。せめて、もっと先輩や友人の助言をはっきりと求めるべきであった。たとえば、普通の日本人男性は、何につけ非難叱責されるのがきらいで、人格を傷つけられた、いやみを言われたと思うと、それをいつまでも気に病むことがあることなど、その頃からわかっていればよかったと思う。しかし誰もそのようなことは教えてくれなかった。きっと、自分では気づかぬうちに私のしたこと言ったことがさぞかし人を傷つけたことだろう。こんなことがあった。ある知人がいつか伝えてくれたのだが、彼の仕事の同僚が、R先生はあれでもキリスト教なのかねと言っていたというのだ。どうも、その何年も前、その人が私の大学の学生だったころ、廊下でおしゃべりをしていたら、私が教室からとび出してきて、額に八の字をよせて「やかましい」とどなったことがあるらしい。

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