公開
2006-01-13

『解つてたまるか!・億萬長者夫人』

『解つてたまるか!・億萬長者夫人』新潮社
昭和四十三年十月十五日發行

「後記」より

喜劇は昭和二十七年の「龍を撫でた男」以來、一つも書かなかつた。それまで馴染みの文學座と縁が切れ、何處からも依頼が無かつたからである。處が昭和四十一年に劇團欅の成立を見、その旗上公演用臺本をどうしても私に書けといふ膝詰め談判を受けた。欅の性格や今後の方向に最も責任があるのは私だからといふのがその理由である。尤もなので、私はその要求を素直に呑んだ。その結果生れたのが「億萬長者夫人」である。昭和四十二年一月に脱稿、「展望」三月號に發表した。「龍を撫でた男」以來十六年ぶりの喜劇といふ事になる。初演は三月、それが赤字の割合に好評で、都民劇場の好意により同年十一月には欅第二囘公演として再演されるに至つた。

前に喜劇は何處からも註文が來なかつたので書かなかつたと言つたが、嚴密に言へば、日生劇場が出來た直後、淺利慶太氏から劇團四季の爲に喜劇を書く樣に依頼されたのである。私は直ちに引受け、二年後には内容は勿論、題まで決め、執筆の爲のノートまで作り始めた。その題は『總統、未だ死せず』といふもので、ヒトラーの替玉が日本に現れる話である。それが種々の事情で淺利氏の要求した期日までに間に合はず、『解つてたまるか!』に變更したのである。そして「自由」の今年(昭和四十三年)の七月號に發表した。

目次

inserted by FC2 system