公開
2006-01-13
最終改訂
2014-03-16

『謎の女』

『謎の女』新潮社
昭和二十九年二月二十日發行
『謎の女』河出新書(文芸)31
昭和三十年六月三十日第一刷發行
カバー繪 三岸節子

新潮社版・帶より「『謎の女』について」

『謎の女』は、評論家として、また劇作家として、特異な存在と認められている福田恆存氏の、小説家としても決して凡ならざる才能をもつことを示した注目すべき作品です。 一人の未亡人が、周圍のあらゆる束縛から自由になろうとして、すべてを自分の計算どおりに運ぼうと意圖し、そしてまたそのとおりに事が運んだ爲に、かえつて動きのとれぬ窮地に追いこまれてしまうという物語りを、新潟から淡路までの、あの奥の細道後半の風光のなかに展開しながら、讀者を思考と感傷とのこころよい均衡に誘つてゆきます。ここで作者が試みている一種の外面描寫――作者が描寫したり事實を發見したり心理を忖度したりしないで、作中人物どうしに、互いに鏡になる役割りをおわせてゆくという方法も。鮮やかにきまつているようです。

なおこの作品が、新大阪新聞に連載され、後に新潟日報に『由香子の秘密』として轉載された事を附記しておきます。

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