制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2009-03-28

竹友藻風譯『丸太』

人類の本 第十 [小説戲曲篇]近代佛蘭西短篇小集『丸太』
大正十三年六月十八日發行
新しき村出版部

『丸太』は大正十一年より翌年の秋まで「明星」に連載せられたもの、『窄き門』『イアリス』『サントオル』はいづれも十年程前、譯者が學生であつた頃に愛讀したものの飜譯である。『サントオル』だけはその後「南歐文學」の記者に勸められ、多少筆を加へてその雜誌に載せたことがあるけれども、「アルス」「心の花」「藝文」など、これらの飜譯が出た雜誌の中には今日殘つてゐても當時とは大分變つたものになつて居り、「アルス」の如きは二號か三號で廢刊したやうに記憶してゐる。當時譯者は英文學を專攻してゐたが、それだからと言つてその外の國の文學を讀んではならぬとは考へなかつた。今日でもさう思つてゐる。唯、何時までも學生でゐる譯には行かないところから自然に專門的な仕事に就くやうになり、佛蘭西語で書いたものなどを讀む機會が次第に尠くなるのは止むを得ないとは言へ、殘念である。その中に何とか工夫してもう一度昔のやうに自由な境涯を作りたい。さうすればもつと多く佛蘭西の文學などにも親しむことになるであらう。出來るならば夜の勉強を英文學にして、朝飯の後、或は三時のお茶の前の安樂椅子には佛蘭西の假綴の書物を持ちたい。贅澤だと言つて叱られるかも知れないが、構はないから、ムシウ、ヹストル・ボナアルにでも相談してみようと思ふ。

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