オーウェルの文學作品を概觀し、その意義を適切に述べてゐる。オーウェルの小説や批評を讀み始める際、本書は最良のガイドブックとなる。既にオーウェルを深く讀みこんでゐる人にも、本書は納得出來る筈。
規則があり、それが遵守されるところには、自由は生じても壓制は生じない。壓制は規則が恣意的に改變されたり、恣意的に適用されたりするところにのみ生じる。
……イギリスの制度を片端から嘲笑するのが左翼知識人たちの義務となり、國歌が演奏される時に起立するのは、慈善箱から金錢を盜み取る事よりも恥づべき事と感じられるやうにさへなつた。その時彼等は愛國心と知性の乖離を當然の事とみなしてもゐたのだが、かういふ<直線的>思考の代償に思ひ至る事は、まづ無かつた。愛國心とか宗教といふやうな根柢的なものにひとたび背を向けると、人はその代替物を求めないわけにはいかなくなる、とオーウェルは言つたのである。